第84話 おかしな護衛対象
魔獣化したダイアウルフ?も無事倒せて、レティアがぽいぽいと死骸をマジックバッグの中に入れていく。
「この亜種って売れるのかね?」
レティアは、珍しい素材の値段が気になるみたい。
「毛皮は立派だし、そもそも亜種で珍しいってことで剥製とかにしたい貴族様もいるんじゃない?」
「そうか」
マルクが答えると、レティアは言葉少なだが満足気に笑みを浮かべる。
あれ、レティアの腕に切り傷がある。
「怪我してるね、治すね」
私はポシェットからポーション瓶を取り出した。
「いや、こんなのほっといて平気でしょ」
「ううん、ちょっと実験したいから付き合って欲しいのよね」
断るレティアを制止して、私はポーション瓶をあける。そして、上向きにした『私の』掌の上に蓋を開けたポーション瓶を傾ける。
「……は?何勿体ないことして……」
レティアの苦言が途中で止まる。
だって、零れるはずのポーションは、私の掌の上に球体を作って浮いているから。
「「「……」」」
三人とも唖然としている。
レティアから少し離れてっと……。私は、回復するべきレティアから距離をとる。そして。
「行け、ポーション弾!」
レティアの腕の怪我目掛けて、ポーションの塊を投げつけた!
『バシャッ』と腕の怪我に命中したポーションは、レティアの腕を綺麗に治していた。
「「「はああぁ?」」」
「ポーション弾ってなんだよ、そんなの聞いたこともないぞ!」
今の一部始終を見ていたマルクが呆れた様子だ。
「ポーションと水魔法のコラボレーション。これなら戦闘中でも治癒魔法みたいに遠くから治せるじゃない!」
私は、実験が上手くいったことに大満足で、エッヘンと無い胸を張る。
「護衛対象のはずの錬金術師がおかしい」
レティアがボソリと呟いた。
「それを言うなら、もっとおかしい前線で戦闘してる護衛対象がいるじゃない!」
私は軽々と片手でハンマーを担ぐリィンを指さす。
「なんたってドワーフだからね!これくらいの力持ってて当然だろっ!」
「そっちがおかしい!」「いやそっちだ」と言い合いする私たちを、マルクとレティアが眺めている。
「なあマルク」
「ん?どうしたレティア」
「これ、護衛任務っていうより、戦力増加してないか?」
「俺たちAランク冒険者に普通についてくる、凶悪ハンマー娘と、回復師なんだか魔術師なんだか錬金術師なんだかわからない後衛か……」
「いっそこの子達を冒険者登録させてパーティ組んでもいいような……」
「……だなあ」
「いつかこのメンツでドラゴン倒したりしてな」
「んで、彼女たちにその素材でドラゴンバスターとドラゴンスケイルメイルを作ってもらって」
「……マルク、それは微妙に順番がおかしいぞ。ドラゴンを倒すのにドラゴンバスターがいるんだ」
「そうだったな」
「……まあ、あれを収めてそろそろ出発するか」
そう言って二人は頷きあって、言い争いをする私たちの仲裁に入るのだった。
◆
そして、言い合いも終わった私達はまた馬と聖獣に乗って、街道沿いに走り始める。
先頭から、マルク、リィン、私、そして最後尾をレティアが護っている。すると、私の前を走るリィンの肩になにか黄色いものがいるのが目に入った。それは、一言で言ったら三角帽子を被った黄色い小人のおじいちゃん。豊かなあごひげが立派だわ。それが、リィンの肩でリィンの耳に何か内緒話をしているの。
「……リィン、その黄色い人……」
「あ、見えた?これ、土の妖精さん」
「「はあぁ?」」
前後にいる二人は当然そんなものは見えてないようで、あたりをキョロキョロしている。
「止まって。この先に洞窟があって、いいものが採れるらしいぞ」
そう言って、街道を外れて森の中に入った先を指さす。みなも馬や聖獣の足を止めて集まった。
「ちょっと寄り道したいんだけどいいかな」
リィンは、ダメと言っても一人で行きそうな雰囲気だ。
「ハイハイ。今回は素材採取の護衛だからね。俺たちは行先に文句をつけずに護るだけだな」
「ああ、そうだな」
マルクとレティアが許可を出す。そして、ボソボソと二人で話し始めた。
「なあレティア」
「なんだ?」
「妖精っているのか?」
「さぁな。まあ、規格外なお嬢ちゃんたちが揃っているって言うなら、いるんだろ」
「……そっか」
達観してしまった様子のレティアに比べ、苦労性のマルクは、なんだかおかしな少女達とかかわり合いになってしまったのかもしれない、そう思った。
森に入るにあたって、マルクとレティアは馬を降りて、手綱を引いて歩くことにしたようだ。先頭を行くマルクが、ハルバードを振り回して低木や草を薙ぎ、道を作って歩いていく。私とリィンは、聖獣に乗ったまま進む。
当然森の中だから、それなりに魔獣は出てくるんだけれど、猪みたいなイービルボアとか、その上位種のデビルボアが出てきたくらいで、あまり大した戦闘にはならなかった。うん、彼ら相手だと戦力過剰だよね。私が氷魔法で足止めして、サクサクと前衛三人が首を狩って(うち、一名は頭潰して)おしまいだった。
やがて、森が開けて、洞窟全体が氷におおわれた、氷柱が天井から幾重にもぶら下がる洞窟が目の前に現れた。
それを前にして、リィンの肩の黄色い小人さんがうんうんと頷いている。
「うん、ここらしい」
洞窟の中にモンスターが潜んでいることもある。マルクが魔道具のカンテラをマジックバッグから取り出して、先頭に立って辺りを照らして警戒しながら慎重に先に進む。警戒などしなくとも良い状況であれば、カンテラの光があちこちにぶら下がる氷柱や壁面や天井、足元といった氷の壁に複雑に反射して辺りを明るくし、それは幻想的な光景に思えただろう。幸いなことに、洞窟はただ一直線で、枝分かれしたりと言った、道に迷うような要素はなかった。
……ただし、その最奥には、巨大なアイスゴーレムが居たのだが。
ゴーレムとは、本来土や岩でできた巨大な人形のような魔物だ。大抵の場合、その体のどこかに核となる魔石を持っていて、それを砕かないと何度も再生して倒せないという。しかし、ここにいるのは氷でできたゴーレム様の魔物だった。えーっと、誰か火魔法使える人っていたっけ?しかも床面も凍りついているから、アタッカーは踏ん張りが効くのかも怪しい。
……ねえ、リィン。洞窟にあるのは『いいモノ』って言わなかったっけ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。