第15話 初めての魔法の練習

 私の日課に、朝夕の畑の水やりと、魔法の訓練が加わった。


 今畑に植わっているのは、癒し草、魔力草、万年草、薬草、魔導師のハーブの五つだ。

 植え替えてから一週間、これらの葉はよく茂り、葉を摘んで使いつつ、種を取り、品質を上げていく予定だ。


 栄養いっぱいに育った草→良い種が取れる→良い種を植える→栄養いっぱいに育てる→もっと品質の良い草→以下繰り返し


 ってならないかなと思っているんだけど、どうかしら?


 ◆


 朝の水やりをやって、朝ごはんをみんなで食べたら、午前中に魔法の訓練の時間だ。うちの庭には、子供が魔法を練習するための、魔法を当てる的を置いた練習場があるので、そこで魔法の練習をする。


 先生は魔導師のユリア先生だ。ユリア先生は、結婚で引退した元宮廷魔導師で、子供の手も離れた頃に、元同僚だったうちのお父様から家庭教師の依頼を受けたんだとか。


「デイジーです。今日から、よろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げて挨拶をする。


「初めまして、ユリアと申します。今日から一緒に頑張っていきましょうね」

 そう言って私の頭を撫でた。淡い水色の髪と瞳が優しげな先生だ。


「レームスとダリアは、今日は昨日の復習をしていてね」

 そう言って、的に向かって立っている兄様と姉様に声をかけた。

「「はーい!」」

 兄と姉が的に向けて魔法を撃ち始めた。


 そして再び先生は私の方に向き直る。

「デイジーは、体の中に魔力を感じたことがあるかしら?」


 この辺りね、と言って、私のオヘソの下の辺りに触れる。

 そこは、錬金術で魔力を込めてかき混ぜたりする時に、暖かく感じる場所だった。

 なので、その通り先生に答える。


「あら、五歳でもう錬金術をやっているの?」

 驚いたように先生が目を見張る。

「だって、私は洗礼の時に『錬金術師』って言われたの。職業が『魔導師』だったからと、早くから魔法の練習をしている兄様姉様と変わらないわ」

 先生はにっこり笑って、うんうん、とうなずいてくれる。


「ヘンリー様は本当にお子様の教育に熱心なのね。魔法の練習をすることは、貴女にとっては魔法が使えるということ以上に、あなたのためになると思うわ。魔力を上手にコントロールする術を身につければ、錬金術にもきっと役に立つはずだから」


 私はその言葉にとっても嬉しくなった!

「はい!頑張ります!」


 そうして、その日は魔法を撃つのではなくて、基本だという魔力操作というものを練習することになった。


 人間の体の中に心臓と血管があるように、魔力も、オヘソの下に心臓に当たる部分があって、身体中に巡るように魔力を流すための管があるのだという。ただし、普通魔力は血と違って勝手に流れたりはしない。意識して動かすことによって、魔力は体の中を巡るのだそうだ。


「じゃあ、オヘソの下をスタートに、ぐるっと暖かい感じを回してみましょう」

 うーん、これがなかなか動かない。

「先生、動きません」

 首を傾げて私は先生に告げる。


「じゃあ、錬金術で魔力を込めた時とか、この間ウインドカッターを使った時の感じを思い出してみて?」

 先生が、またオヘソの下に手を触れる。


「ここから手に向かって、暖かいものが流れなかったかしら?よーく思い出して」


 そう言われて私は目を閉じて、その時のことを思い出してみたり、再現するようなイメージを浮かべたりした。すると、すうっと私の利き手の方に暖かいものが流れる感覚がした。

 私は先生にそのことを告げた。


「そう!それが魔力操作よ!」

 よく出来ました、と言って私の頭を撫でてくれる。嬉しくなって私はくしゃりと笑った。


 私は一生懸命ぐるりと体の中をどこに通せるのか探りながら、魔力を回してみた。ちなみに、魔力操作をするだけでも魔力は使うようで、私の中の魔力はだんだん減ってくる。


 鑑定で見た時の、『魔力』という項目だ。

【デイジー・フォン・プレスラリア】

 子爵家次女

 体力:20/20

 魔力:160/180

 職業:錬金術師

 スキル:錬金術(3/10)、鑑定(4/10)、風魔法(1/10)

 賞罰:なし


 今見たら、もう既に魔力操作を始めていたので、160まで減ってきていた。そしてそのうち段々減って、0に近づいてきて……。

 私は、そこでぱったりと気を失った。


 ◆


 私はお昼すぎに目が覚めた。

「あら、目が覚めた?魔力を使い切ってしまったから、気を失っていたのよ」

 お母様が、私の髪を梳きながら、見守っていてくれたようだ。


 あれ……?

 魔力を使いきって気を失った時は、魔力が180だったのに、目が覚めたら183に増えていた。

 驚いて、そのことをお母様に告げた。すると、

「まあ、それが本当だったら凄いことだわ。お父様が帰ってきたら報告しましょう!」

 お母様がとても興奮していた。


 夕方に帰ってきたお父様は、「それが本当なら大発見だ!」とその報告にとても興奮していた。

「レームスとダリアとデイジーも、今夜寝る前に魔力を使い切って寝ること、いいね!」

 その晩、私たち兄妹は魔力操作をやりきって眠りについた。


 次の日の翌朝【鑑定】で見てみると、兄は3、姉は2、私は2、魔力総量が上がっていた。

 父は大喜びだ。

「今からこれを取り入れていけば、子供たちの将来に期待ができるぞ!」

 そして、私達子供は、毎日寝る前に魔力を使い切って寝ることを命じられることになった。

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