地球の缶詰

草川斜辺

第1話 世界

「朝ごはんよ」


台所から母親の声が聞こえてくる。今日の当番はお母さんか。

ちょうど着替えが終わり、今から向かおうというところでいつも聞こえてくる。


「今いくよ」

エルネクは大声で返事をすると部屋を出てまず洗面所に立ち寄り、いそいで顔を洗って食卓に向かう。

母が食器を片付けている音が聞こえる。既にでかけている父と一緒に食べた時の分だろう。


「おはよう」

母がいる方に向かってあいさつしながら食卓につく。いつもの朝食が用意されている。

朝食はパンときのこのスープ、タヤルキューブだ。

急いで平らげると、母に言われる前に歯磨きに向かう。歯を磨きトイレに行って、一度部屋に戻り靴下をはくと遊びに出かける。今日は朝から遊んでいい日なのだ。


「行ってきまーす」


玄関のドアを開けると外は明るく、庭の植え込みの葉が朝露でキラキラと輝いている。

見上げると円筒形に広がる街が見渡せる。右上に見える家からちょうどエレナも出てきたところのようだ。こっちを見上げて手を振っている。エルネクは手を振り返すと、小さな庭を駆け抜け左上に見える公園に向かう。


「いってらっしゃい」

母が玄関先まで出てきてエルネクを見送る。


「ほんと、元気ね」

母は嬉しそうに笑うと、とがった耳がふるえ、朝の日のひかりを受けた青い皮膚が鮮やかに輝く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る