俺たちの戦いはこれからだ!
──翌日の放課後
「いやー、やっぱりこたつはあったかいよな」
さっそく三人でこたつを囲んでいる。
こたつの下に引くカーペットがない時は焦ったが、同じ部室棟2階の写真部が、
「これ、いらなくなったからあげるよ」
と、快く譲ってもらった。
あのこたつ争奪戦争は、他の文化部とも交流を深めるいい機会となったかもしれない。
きっとこの金沢市では数十年に一度、こたつを求めて7人くらいの文化部員が争いを繰り広げていくことだろう。
「知ってる? 騒ぎを聞きつけた先生たちが緊急会議した結果、顧問の了承を得れば暖房器具の持ち込みが認められるようになったんだって」
「え、それまじ? 俺たちが頑張った意味が……」
「いや、オレたちのこたつ争奪戦争にとんでもない人数集まってたからな。暴動だと思われたんじゃないか?」
「あはは、そうかもねー。SNSでも泉の色んな人がつぶやいてたよ」
「まじで? ちょっと二宮、見してくれよ」
「構わないぞ」
二宮から携帯を借りて、リクおにーちゃん@泉ちゃんのアカウントを起動する。
「何て検索すれば出るんだ?」
「決まってるだろう? 泉ちゃんじゃんけんだ!」
「悔しいけどお前のネーミングのおかげで調べやすいな……」
泉ちゃんじゃんけんで検索してみる。両隣から二人も覗き込む。
『泉ちゃんじゃんけん、反則過ぎるwww』
『唖然として、一瞬まじで真っ白になったんだが』
『カードゲーム部の某二人はまじやばい笑 あいつらいい意味で頭おかしい笑 いや普通に頭も悪いけどね笑』
「おい誰だ、最後の悪口言ってるやつ!? 個人名を晒せ!」
「オレたちのことバカにしやがって!」
「ま、まあまあ……」
更科がなだめる。
「こいつの過去の投稿から個人を特定できねえか!?」
「オレに任せておけ! 得意分野だ!」
「おうまじか! 理由は聞かねえけど任せたぞ!」
「この写真の背景、時間帯、そして写っている子どもの瞳に映っている景色から考えると……」
「止めてっ!? なんで慣れてるのかは詳しく聞かないから止めて!」
更科が二宮の携帯を取り上げてしまった。
仕方ない。捜索は諦めよう。
「まあよかったよ、これでみんなにカードゲーム部の存在を知ってもらえたからね」
「確かにな。さっき俺と二宮がここに来る時も声かけられたしな」
「「あのカードゲーム部ってお前らか!?」って言われた時は一瞬何のことかと思ったぞ」
「あはは、良くも悪くも有名になったかもね……」
どちらかと言えば悪い意味で有名になったと思うが、それでも憧れの主人公というものに一歩近づいた気がする。
本音を言えば、異能バトルとかラブコメとかのかっこいい主人公を注文していたのだが、俺に届けられたのはどうやら、ギャグとかコメディとか、その類の主人公だったようだ。
まあ、それも悪くはないのだろう。
何というか、身の丈に合っている気がする。
俺にはこれぐらいがちょうどいいのかもしれない。
皆が憧れる主人公というものは少し荷が重すぎるしな。
「つーか、さっき投稿を見た感じ、カードゲーム部って俺たち二人だと思われてるっぽいな」
「確かに。誰も妹のことは触れてなかったな……」
「まあ実際、昨日完全に空気だったよな」
「オレは途中から存在忘れてた」
「ひどいっ! 私が部長なのにっ!」
途端に更科の瞳が潤んでいく。
今日は随分とリミットブレイクが近いようだ。
「ま、まあ偶然だよな……」
「そ、そうだぞ……オレもざっくりとしか見てないし」
「私も昨日必死に探したけど誰もつぶやいてなかったもん!」
「「Oh……」」
エゴサしてたんだ……。
どういう単語で検索していたのか非常に気になるところだ。
金髪 可愛い
とかで検索してたんなら目も当てられないが、まじで泣きそうなので聞くのは止めておこう。
「いいもんっ! きっとしっかり探せば誰かが──」
「やめておけ更科! それ以上は悲しいだけだ!」
「そうだ妹よ! 自ら傷つきに行く必要はない!」
更科が二宮の携帯を一心不乱にスワイプする。
「あ……」
すると、更科の指が止まる。
そして、いつもの明るい表情が消えた。
「そうそう、私、昨日気になって泉ちゃんって何なのか調べたんだよねえ……」
「「……」」
俺と二宮は互いに目を合わせた。
(おい、なんかいつもと様子が違うぞ……?)
(妹のあんな顔は初めて見るな……)
「SNSで泉の人の投稿とか調べてみたら、たまに校内放送を担当してる女の子だって分かったんだけどさあ……」
ギロッ!!
更科が二宮を睨みつける。
「そ、そうだぞ……」
怖っ! めっちゃ怖っ!
金髪碧眼で威圧感がやばい……。
あ、これ、外国人の先生に怒られてるときと同じやつ!
容姿プラス英語で何言ってるか分からなくてめっちゃ怖いやつ!
「あー、これ私のことだなあって分かったんだよね。応援してくれるのは単純に嬉しかったんだけど……」
「だ、だろ!? オレが毎日欠かさずつぶやいて──」
「でもね。」
更科の瞳から色が消える。
あれ、この感じ二宮先生でも見たことある気が……。
「一つだけ見過ごせないやつがあってさあ。これなんだけど」
更科が二宮に携帯を返す。
見せたのはリクおにーちゃん@泉ちゃんのつぶやきだった。
【朗報】
泉ちゃんは処女。
もう一度。
泉ちゃんは処女。
拡散希望。
「わー、すごい反響があるね。フォロワーさんたちがすっごい拡散してくれたみたいだねー……私に何か言うことない?」
「オ、オレは妹の、泉ちゃんの素晴らしさを同志たちに……」
(おい、山市っ! 助けてくれよ!)
(こればっかりはお前が悪い。自分で何とかしろ)
「あれー? なんか勘違いしてない? ねえ、二宮君、いや──二宮?」
「ど、どうした? そんな言葉遣いは妹らしく──」
「えっ妹? あははー何言ってるの?」
更科、いや、更科さんは乾いた笑みを浮かべた。
「私、年上だけど。敬語使ってくれない? なあ、二宮?」
「……」
二宮が言葉を失って完全に固まっている。
きっと彼の妹像が今、音を立てて崩れ去っていることだろう。
「妹っていうより姉だよね。なんか言いなよ? 黙ってないでさ。先輩が聞いてるんだけど」
「……」
「お、俺、ちょっと用事思い出した。職員室行ってくるわ……」
一刻も早くこの場を去りたい……。
「あれ? ちょっと? 荷物持っていく必要ある?」
更科さんに見つかってしまう。
「いや、その、この後予定がありまして……」
「そうなの? じゃあしょうがないね。明日も部活来るよね?」
「え。いやあ、明日はちょっと都合が──」
「なんか言った?」
「──明日は都合なんてないので、明日が待ち遠しくて仕方がないです。」
「そう、じゃあまた明日」
「はい。お疲れさまでした!」
「おい山市! オレを見捨てないでくれよ!?」
二宮、今までありがとう。お前のことは忘れない。
悪友に何度目かの最期の別れを告げて、俺は部室を飛び出した。
俺たちの部活動はまだ始まったばかりだ。
──職員室横の生徒指導室にて。
「先生、この前、二宮がもしかして年上も恋愛対象として見れるかもしれないって僕言いましたよね?」
「そうよね! それってりっくんが姉も恋愛対象として見れるかもしれないってことよね!?」
「その可能性、多分今日でなくなりました」
「へ……?」
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