第66話 裏切り者

アルトに吹き飛ばされて来たときよりもサタンの状態が酷い。


「待ってろ、今治す」

「いや、無理だ……」


どれだけヒールしても治る気配がない。

アンデットじゃないならヒールできると踏んでいが、なぜだ?


「あの呪われた術式による呪詛は、如何なる回復術をもってしても治せん。これほどの呪詛ともなれば、そこの聖女と同等の力を持った聖者でなければならん」


エリア教教祖のガードナー司教でも捕まえて脅せばいい。

「なら探して」

「無理だ。聖者の力は、儂との相性が悪過ぎる。悪魔である儂では浄化され」


不意にヴィナトが飛んできた。

近くの民家に突っ込み、肉体の一部分が焼き焦がされている。


「ヴィナト!」

「……すまんの」


咳き込み血を吐くヴィナト。

傷が自動再生される事はなく、みるみる弱っていくヴィナト。


「ヴィトン、これを飲め」


ニーナの血の入った吸血鬼専用ポーション。

けれど、ヴィナトは飲もうとしない。

ゆっくりと首を振り、血だらけの手で僕の頬を撫でた。


「……すまんの……クロム」


なんで謝る?

どうしてそんな優しい顔をして死のうとするんだ……


「……クロム」


ヴィナトは僕の手を握った。

互いの掌に刻まれた吸血鬼の証が血と共に交わる。


「……カルミアを、もう眠らせてやってほしい」


止まらない血を流していくにつれて、握られた手の力も弱まっていく。


「クロム、すまんの……お主の傍に、居てあげたかった。ニーナとも、話しておったのじゃ。クロムの傍に、居られる人であろうと……」


ニーナと初めて会った日、ニーナは僕に言った。

いつか、愛おしい人との未来を、と。


「……クロム、おやすみ……」

「ああ。おやすみ、ヴィナト」


こんなにも綺麗な顔をして、ヴィナトは死んだのか……


「男、姉様をよこせ。さすれば殺しは致しませんわ」

「いい加減、その変な喋り方をするなよ。聞き苦しい」


ヴィナトもニーナも死んだ。

僕は何を憎んだらいいのだろうか。

アルトにも、ルエナにも、ルークにも、もう散々復讐した。


アスミナには、僕はどうしたらいいだろうか。

いや、もう十分か。目の前でパーティーのみんなを護れずに見殺しにした。愛する民も、自分の裏切りで大勢死んだ。


誰にも、救いなんてない。


「アタシにそんな口の聞き方すんなよ、汚らしいオスのクセに」


それが太陽の聖女様の本当のお姿というわけだ。

僕も全力でいこう。

ニーナとヴィナトの仇だ。


歪んだ愛で姉を殺したカルミアと、復讐に身を焦がして全てを失った僕。


「裏切り者同士、仲良くやろうじゃないか、カルミア」


ヴィナトの願いを、叶えてやろう。

愛と憎しみを抱えて生きる者の為に。

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