第30話 酒場の冒険者はだいたい阿呆
僕らは宿を取ってから酒場に向かった。
2部屋だけしかないという事でまたしてもキャットファイトが行われたが、ヴィナトとニーナ、僕と屍メリルという配置に落ち着いた。
ちなみに僕もヴィナトに顔を魔法で変えてもらった。
僕は王国でお尋ね者であり、追放前に顔を知られていたので危なかった。
「よし!今日はたくさん食べるとするかの!」
「お酒も種類があっていいお店ですねっ」
「ヴィナト、いいのかこんなに大量に頼んで?」
「ふっふっふっ。大丈夫じゃクロム。金はあるんじゃ」
それじゃあ遠慮なく頂きますかね。
割と賑やかな酒場に魔王軍の幹部がひとり、お付のメイドがひとり、そして幹部の眷属にして王国お尋ね者の僕の3人が何事もないかのように飯を食べ、酒を飲んでいる。
屍メリルは宿に置いてきた。
暴れさせるにはまだ早い。
「……聞いたかよ、勇者様一行が役立たずと追い出したはずの回復術師に半殺しにされて帰ってきたってよ」
「……骨を折られまくって死にかけてたんだってな。元仲間だからって裏切り者にやられ過ぎだろ」
やはりどこもその話で持ち切りか。
ハーフ吸血鬼になってから聴覚も鋭くなっていて、遠い席の客の会話も普通に聞こえてくる。
「酒場とは非常に便利な所じゃ。皆が酩酊し口を滑らせる。拷問するより簡単に情報が手に入るでのぅ」
「クロム様、このお肉美味しいですよっ。はい、あーん」
「自分で食べるから皿に置いておいてくれ」
「ニーナ!クロムとイチャつくでない!ほれクロム、こっちの魚のムニエルも美味じゃぞ?」
肉と魚を刺したフォークを向けられている。
段々と周りからの視線も向けられてきて、非常に食べづらい。
((注目浴びてるだろうが?少しは大人しく食事できないのか?))
(……すまんクロム)
(ご、ごめんなさいクロム様ぁ)
2人とも涙目で自分の口に肉と魚を入れた。
こういう時に念話は便利だな。
「やぁお嬢さんたち、俺たちと一緒に飲まないか?そんな弱そうな男とじゃなくてよぉ?」
「そうだぜ?そんな無愛想な奴と飲み食いしてたってつまんないだろ?」
現れたのは4人組の男冒険者たちだった。
首から下がっているタグからしてBランク冒険者のパーティーだった。
Bランクの割には弱そうだな。
「お主らのような弱そうで下品な者たちと食事を共にしたいとは思わんのぅ。丁重にお断りさせて頂こうぞ」
「クロム様はいっつも無愛想ですけど、意外とピュアなんですよっ!失礼ですね!いつもハリネズミのちーさんと楽しく柔らかな表情で遊ばれていますっ!あなた方のような獣臭そうな者とは違うのですっ」
ニーナ、それ、フォローしてる?てか覗き見してるだろ?
「ははっ!元気のいいお嬢さんたちじゃないか!」
「へへへっ。そそるぜ」
欲望丸出しのオスの舌なめずりとか気持ち悪い。
「……アスベルトたち、またナンパしてやがるぜ。盛ってんな」
「……まあ、ここじゃ日常茶飯事だしなぁ。相手があのBランク冒険者パーティーのアスベルトパーティーじゃあな。あのお嬢さんたちも可哀想になぁ」
男たちがニーナの腕を掴もうとして、僕は不意にその男の腕を掴んだ。
「ああ?なんだ?やんのか?」
返事も聞かずに殴りかかってきた男の拳を真っ向から僕は顔に受けた。
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