第5話 王族と貴族と田舎者事情

「クロムよ、あんなにあっさり殺してしまってよかったのか?一応はお前さんの仇じゃったろうに」

「必要な情報は聞けたからいい。素直に吐いたんだから、楽に殺してもいいだろ?そこまで鬼畜じゃないよ」

「充分鬼畜じゃったぞ?」


メリルの話で聞けたのは噂程度のものだった。

勇者パーティーを率いる勇者アルトは元々僕を嫌っていたらしい。


僕はてっきり、あまりの田舎臭さに嫌われていると思っていたが、実は王女にして結界の聖女のアスミナが僕に好意を寄せているらしいと王家では噂されていたらしい。


王家としては勇者であるアルトとの婚姻を望んでいたようだ。


そして同じく勇者パーティーの聖騎士ルークは王国の中でも3大貴族であるエスティアナ家の長男だ。


貴族としての立場や王女であるアスミナとの政略結婚を望んでいたエスティアナ家。


勇者アルトと聖騎士ルークは互いに恋敵であったが、アスミナが僕に好意を寄せている事に気が付いており、まずは邪魔者である僕を消そうと計画したのでは?との事だった。


「それにしても、勇者パーティーは魔法使い以外の者が治癒魔法を使えるのだな。厄介じゃのう」


僕がパーティーを追放された理由、および建前はパーティーのほとんどが治癒魔法を使えるようになったから回復術師のお前は必要ない、ということだった。


「治癒魔法は、ね。治癒魔法と回復魔法は違うんだけどね」

「どう違うのじゃ?どちらも癒しの魔法じゃろ?」

「勇者パーティーの中で治癒魔法を使えるのは勇者、聖騎士、結界の聖女の3名。いずれも専門職じゃない。彼らが癒せるのはかすり傷くらいだ」

「それだけ出来れば上出来じゃろ?聖騎士の防御力や結界の聖女の結界魔法は非常に厄介じゃし」


そう。彼らパーティーは非常にバランスの整ったパーティーだ。

何度か手間のかかる怪我はしていたが、大きな怪我など基本しない。


「彼らには切られた手足を戻せる手段はほとんどないんだよ。千切れた腕を傷口に当てて治癒魔法を掛け続ければ繋がるけれど、喰われた腕なんかを生やしたりは出来ないんだよ」

「なるほど、治癒魔法では再生はできぬという事か」

「そう。回復術師の究極は再生させる事にある。まあ、頭を吹き飛ばされて即死とかじゃなければだけど」

「流石専門職じゃのう。しかしこれは良い事を聞いてしまったのう。妾たち吸血鬼は勝手に再生するからのう、違いがよくわからんかったぞ」


こんな情報を魔王軍の幹部に与えてしまって良いのだろうかとも思わなくもないが、僕はもう人類の敵だ。

寝返った者として有益な情報のひとつくらいくれてやろう。


「それにしてもクロムよ、先の女、味見のひとつくらいしてから殺してもよかったろうに。お前さんとて半分は人間じゃろ?」

「味見?血の事か?」

「違うわい。抱かなくてよかったのかと聞いておる」

「考えなかったな」

「妾の体でよければ何時でも好きなようにしてよいぞ?完全な吸血鬼ゆえ子は孕めぬがの」

「……復讐が終わったら検討するよ」

「つれないのぅ」


……吸血鬼ジョークなのか、本気なのかわからない。

いや、ジョークだな。


惚れられる事なんてしてないし。

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