サフランの花[さふらんのはな:晩秋]

 先生の研究室にはいつも花が咲いています。居住区よりも厳密にさだめられた季節の変化は、わたしたちの祖先が生きた惑星をなぞります。

「古くは薬として、染料として、重宝されてきたんだよ」

 紫色の花から毒々しく赤いめしべを摘みつつ、先生は言いました。凛とした六枚の花弁は寛容にその手を受け入れています。

「暁の祭りで使うんだそうだ。太陽を讃えて麺麭パンを黄金色に染めるのだと。この惑星ほしの太陽にとってみれば、得体のしれない異星植物だろうにね。文化というのは実にいいかげんだ」

 とはいえ、先生は楽しげに過去の、あるいは現在の文化を語ります。

「さて、当地の昼はわたしにとっても初めてだ。どういう世界が現れるだろうね」

 人間の暦で百年あまりが、この地のにあたります。誰にとってもまだ見ぬ朝が近づいていました。展望室は連日、観光客で埋め尽くされているそうです。人々は朝を祝うべく祭を企画し、古い文献から行事をみつくろいます。

「新しい季節は、一日は、新鮮なものだね。たとえわたしたちの日々の暮らしが、今ある天体の動きに従えないとしても」

 先生の指がまた、優しくめしべをつまみます。

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