VTuberはクラスメイト!?

夜々予肆

第1話

 ベージュ色で長い毛のチワワが俺の元へと駆け寄ってきた。


 そのチワワを俺はよく知っていた。名前はアリス。人懐っこくて、甘えん坊な女の子だ。


「アリスー!」


 俺はアリスを抱きしめる。ふわふわだ。もふもふだ。


 いや待てちょっと待て。


 アリスは一昨年癌で死んだはずだ。最期もこの目で看取った。でも生きてる。俺の頬をペロぺロしている。なんでだ。


「まあどうでもいいか!」


 なんで生き返ったのかはわからないがまた一緒に暮らせる。暮らせるんだ。俺はアリスの背中を撫でた。アリスは嬉しそうに尻尾を振った。


「アリスアリスアリスウウウ!」

玉田たまだぁ!」


 アリスが日本語を喋ったのかと思ったが野太い声だったのでおかしいなと感じた。アリスも玉田アリスだし、俺を呼ぶなら下の名前のはいだ。


 違和感を感じたときには俺は目を覚ましていた。視界には木目の机が映っている。ベージュはベージュだが、アリスじゃない。


 夢だったんだ。


 そうだ。アリスはもう、死んだんだ。火葬されて骨になったんだ。そして今、俺は高校一年生になっているんだ。


 死んだ動物が生き返るなんて夢の中くらいでしかないよなと今になって思う。夢を見ている間は気づかなかった。人間の脳とは不思議なものだ。


「玉田! 神経細胞は何と言う!」


 顔を上げる。教卓からちょっと怖い生物の先生がキレた目で俺を見ていた。ああ。今は授業中だった。


「ニューロン」 


 即答できた。ちょうど脳の事を考えていてよかった。


「お前……」


 けれど先生は俺が答えた後もじっと俺を見つめている。え、ニューロンじゃないの?


「間違いでずが?」

「合ってるんだが、お前……何で泣いてるんだ?」


 俺は咄嗟に目の下を触った。目からは涙が流れていた。下を向くとポトリポトリと雫が真っ白なノートに落ちて水玉模様を作った。ずるずると鼻水も垂れてきた。


「なんでもないでず」

「そ、そうか……」

 

 それからもう先生は追及してこなくなった。死んだ犬が夢に出てきましたとはさすがに言えなかった。ガッツリ寝てましたって言うようなものだし、アリスに私のせいにするなと怒られそうだし。


「えっと…………これ……使う?」


 濡れた目をごしごし拭っていたら、右隣の席のロングヘアーの女の子の篠塚しのづかれもんさんがハンカチを俺に差し出してくれた。花の刺繍が入ったかわいいハンカチだった。これを俺の涙で濡らすのは少し抵抗があったが、断って拭かないのもどうなんだと思ったのでぬぐった。いい感触だった。


「ありがどう、じのづかじゃん」

「て、ティッシュも……」


 ティッシュもくれた。俺は鼻をかんだ。篠塚さんは優しい顔で俺を見ていた。

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