解決編

「この事件の犯人、それは……」

 堂羅どうらはゆっくり取り調べ室の皆を見渡す。緊張感が室内を満たす。誰だ、誰なんだ? 

 そして、堂羅は意を決したようにとある人物に向かい指を差した。

「奥さんの夢須神派露むすかはろさん、あなたです!」

 皆が唖然として堂羅が指差す方向を向く。

「そんな! 探偵さん、私は彼の妻ですよ? なぜ彼に毒なんて盛らなきゃ。それに私は当日ずっと家にいたんですよ? どうやって彼の目に毒物を」

 派露は声を荒げ反論する。

「毒物は目を通して入ったのではありません。あなたの作ったお弁当に入っていたのです」

 堂羅がそう言うと派露の顔色が変わった。

「皆さん、よく思い出してください。被害者が倒れる前の言葉を」

「『目がぁ!』ですよね? やはり目から毒物を入れられたのでは? それかやはり何かアレルギー物質が目の痒みに出たとか。でも奥さんのお弁当にも羅火太さんがアレルギーを持っているものなんてなかったはずですよ?」

 俺がそう言うと、

「いえ、それは違うわ。あなたたちは決定的な勘違いをしている。被害者は目の不調を訴えていたのではないわ」

 皆が首を傾げる。しかし、派露の顔はみるみる青白くなっていく。

「眼球、すなわち『目』ではなく、植物の『芽』なのよ。彼はじゃがいもの芽に含まれる毒、ソラニンを口から摂取したのを悟って、『芽がぁ! 芽がぁ!』と叫んだのよ!」

 その場にいる全員が、「あっ!」と声を漏らしていた。

 そうか、「目がぁ! 目がぁ!」ではなく「芽がぁ! 芽がぁ!」。

「恐らく、派露さんはポテトサラダを作る際、じゃがいもの芽ごと入れたのでしょう。しかし、じゃがいもの毒、ソラニンにより人を失神させるような症状はそうそう聞いたことがない。これは私の推測ですが、きっとショックだったんですよ。愛する奥さんに毒を盛られたことが」

「嘘よ! そんなこと絶対ないわ!」

 派露は激昂したように、そう言い放った。

「あいつが悪いのよ」

 派露は静かにそう呟く。

「夫婦仲は冷め切ってたわ。それでも私は毎日家事をして、彼に尽くしてるのに。こんな小娘にうつつを抜かして……」

 派露は夢須神羅火太らひたの部下、楽酢理らすりを睨みつける。

「男なんて皆んなゴミのようだわ!

 でも殺そうとか、失神させてやろうなんて思わなかった。ただ懲らしめてやろうと。一口食べれば苦味で分かるはずなのに。まさか、じゃがいもの芽ごとポテトサラダ全部食べちゃうなんて……バカよ……」

 そう言って派露は泣き崩れた。


 *


 その後、夢須神羅火太さんは体調が回復し、後遺症もなく、職場に復帰した。羅火太さんと楽酢理さんの関係はなんと、妻派露さんの勘違いだった。羅火太さんが愛していたのは派露さんだけだった。しかし、自分に想いを寄せる楽酢理さんの気持ちを無下には出来ず、贈り物を受け取ったり、食事に付き合っていたのだ。

 彼がポテトサラダに芽が入っているのを承知で完食したのは、妻を勘違いさせ、不安にさせてしまったことへの償いのつもりだったそうだ。この事件の後、部下楽酢理さんは羅火太さんへのアプローチをやめた。一方、夢須神夫婦は話し合いをし、今では夫婦仲は以前より良くなったらしい。

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ラピタの悲劇 カフェオレ @cafe443

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