公開説教大会
「だからァ! みなさんから聞いた話を総合すると! ラッシュしゃんは自分勝手すぎるんですよ! 聞いてます!?」
「え、ああ……はい」
「そんな生返事じゃダメれす! もっと大きな声でハッキリと!」
なんなんだこの状況。ジールのやつがエイレに酒を勧めたのはいいんだが、突然あいつの目が座ったかと思ったら、説教までしだして……
「戦場じゃチームワークが大切なんれすよ! あなたのお師匠さんはいったいなにを教えて育てたんれすか!」
この野郎、親方のことまで否定しやがるのか。
「まーまーエイレひゃん。ラッヒュもきっちり反省してるみたいらし、もっと飲もうよ、ね? ね?」
「いや、お前らもうこれ以上飲むなって、マジで死ぬぞ!」
「ラッシュしゃん死にたいってずっとここで言ってたじゃないれすか!」
「そーだそーだ! ここで命を散らすのにゃー!」
いや、俺もちょっとは飲もうと努力したさ。ケガの痛みがやわらぐって話だったし。けど一口飲んで断念した。なんか昔飲んだ酒とは全然違う。これ人間……いや、俺らが飲んでいい代物とは違う!
つーか下着姿で絡みつくなジール! 側から見たら危険だ!
「あんれ〜? ラッヒュあたいのことがキライだったんにゃ?」
「いや嫌いじゃねーけど、今のお前は……」
と言ったら突然二人揃って泣き出したし!
「なんでラッシュさんはこんな素敵な方の誘いを断るんですか……あなた最低ですよ!」
「ラッヒュ最低〜! もう絶対好きにならないんだから!」
いつの間にか俺は、二人の前で正座して説教を喰らうハメになっていた。
「ラッシュしゃん!」
「は、はい!?」
「大好きれす〜」
「あたいも〜」
と思ったら唐突に揃って抱きついてきた。やめろ暑苦しい!
そんな中……ふと思ったんだが、他の連中はいったいどこにいるんだろう? 最悪この泥酔者二人くらい背負って帰れないこともないが……
とにかく、この酒がなくなるか、もしくは二人の酔いが醒めてくれればいいんだけどな。
空を見上げると陽はとっくに落ち、鉛色の空からはまだまだ雪が降り続いていた。
なんていうか、みんな揃って遭難したようなもんだよな。俺たち獣人は人間と違ってこのくらいの寒さはどうってことないのだが、この状況が続くとなるとまた話は違う。
今からでも遅くはない、眠りこけてるこいつらを背負って……
「ラッシュ……?」積もった雪ではっきりと聞こえなかったが、聴き慣れたその声。振り返るとそこには、真っ白な雪にカモフラージュされたあいつが、ルースが!
「よかった……ッッッ!」
改めて詫びようとしたその時だった。
あいつのパンチが顔面に思いっきりヒットしたんだ。
小さなルースだからそれほど痛くもない……が、あいつが俺を殴るなんて!?
「ごめん、けどわかるよね僕の今考えてることが」
殴られてさらに痛くなった鼻面をさすりながら、俺はルースに向き合った。
「君は……もうダメだと思ってた僕の身体を治してくれた。全てに絶望していた僕を。だからこそこれからは……僕の命は君のために使おうって決めたんだ」
だから今度は、とルースは溢れた涙を大きく腕で拭って言った。
「今度は、僕たちが君を助ける番だ」
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