失意

正直、そのあと俺もどうやってあの場を抜け出したのかいまいち覚えていない。

俺が傷だらけ煤まみれでチャチャとチビを背負って歩いていたのをエッザールが見つけてくれたって話だが……

「え、そうだったのか?」

「そう……って、全然記憶にないんですか?」

「負けてから……」

「負け……た?」

そうだ、生まれて初めて俺は敗北したんだ。あのツギハギ野郎、ガーナザリウスに。


去り際にヴェールが言ってたな「ありがとう、これで全てが整った」って。

その、整ったっていうのはつまり……ガーナザリウスが自我を取り戻したってことでいいんだよな、チビに話してたし。

俺の慢心か? 余裕こいてたからか? なんにせよあの時俺は首を刎ねられてもおかしくない状態だった。

そうだ、チビが助けてくれなければ……


で、その勝者といえば、今は俺の隣ですうすう寝息をたてている。

どうして包帯なんて巻いてるの? って言われたほど傷の治りは早く、今ではもうミミズ腫れ程度にまでしか見えないほどだ。

一方、俺はというと……始祖とやらが特別な力を持っていたせいかどうかは分からないが、未だにケガが癒えてないままだった。


そうそう、エッザールとマティエなんだが、別の場所で人獣の残党を片づけていた時、坑道の奥の方から油の匂いがしたらしく、駆けつけたところ……ってなワケだ。


「言えない事情でもあるのか?」まるで俺の心の内を覗いているかのような鋭い目つきでマティエは聞いてきた。

話していいのだろうか……けど今回のことに関して、いやそれ以上に俺の存在そのものが、ひいてはチビの存在もだ、危険に晒されてしまうことになるかも知れないんだ。

「分かってます、ラッシュさんがこれほどまでに大ケガするだなんてまず無いことなんですし。それだけ強い敵がいたってこと……ですよね」

まだ鼻面の傷が痛くて話しづらい。どうすればいいんだ、俺は……!

「チャチャを抑えることに、ラッシュさんがそれほど手こずったなんて」

えええええええええええ!?

「分かりますって。私とチャチャは旧知の仲……というか幼い頃からライバルみたいな関係でした。まあアンティータ族そのものが交戦的かつ伝説の戦士と古くから呼ばれてましたしね」

「あ、ああ……アホなほど強すぎて、な」


と、エッザールの勘違いで上手いことはぐらかしたものの……マティエの疑念の目つきは変わることがなかった。

ちなみにその伝説の戦士とやらは別のところでまだイビキかいて寝てるんだとか。


二人が去った後、俺はずっと考えていた。

このまま隠しとおすべきか、それとも包み隠さず全て話すか。

まあチビの方はさておき、俺が……間接的とはいえ宿敵マシャンヴァル最強の戦士を目覚めさせてしまったのだから。

そしてそいつに完敗したことを……


「くそっ……もっと、もっと強くなりてえ……!」

悔し涙すらこぼれない。それほどまでに俺は、俺自身が情けなかった。

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