エピローグ7 それは敗北から始まる
マジかよ。
なんでこんな奴に一太刀も浴びせることができないまま終わるんだよ……
やべえな、あの時と違って両腕はまだ動かすことできるってのに、重い。鉄の塊のように重くてもう斧を握る力すら残ってねえ。
このまま俺、このツギハギ野郎になすすべもなく終わっちまうのか。
いや違う、こいつに以前、俺はあった気が!
「どうした小童。この程度でもうおしまいか?」
首元に奴の剣が突きつけられる。これで……
終わりか。
……………………
………………
…………
約一か月あまり。エズモールの街もどうにか元の状態に戻せることができた。幸運にも奴らは火をほとんど使うことがなかったから、半壊した家を直すくらいで済んだってわけだ。
これで俺たちの役目も終わったし、俺の新たな斧が出来次第、シィレに帰っていろいろ報告とかしなきゃならねえ。けどそれはマティエのやる事だ。
っと……マティエといえば、なんかここ最近エッザールと仲がいいんだよな。ジールに対してもめちゃくちゃ緊張しまくってたあの男がだぞ? メシ食う時も一緒だし、それにマティエの方も……いい笑顔で応えてるし。
ルースと話している時ですらそれほど表情を崩すことなんてなかったのにな。いったいどんな心境の変化があったのやら。暇な時にエッザールに聞いてみるか。
そんな中だった。奴らの……マシャンヴァルの雑魚どもの残党が真夜中に出没するという噂が聞こえてきたのは。
「一匹だけだったよ。窓の外から音もなく手を伸ばしてきてね、気がついたら夕食に使う魚だけ持ってかれてたの」
と、民家に住むオバさんは話してくれた。けどそれだけじゃあの雑魚とは分からない……? いやそうでもなかった。
あちこちで頻発する、血の気のない肌に黄色い目をした、手足の長い奴らの特徴。総合してみたらこういう結果だとジールは教えてくれたんだ。
「幸いにも街の人が襲われるってことはないけどね。ただみんな心配してるのよ。またあいつらが力をつけてるんじゃないかって」
奴らが行動する時間は夜。だが今はまだだ。
前日夜に路地裏に餌を撒いておいて、まんまとそこに集まったところでイーグが尾行って寸法だ。
だがイーグとジールにはここで住民を守っていてもらうことにした。
なぜかというと……ジャノがまた高熱を出してきたんだ。つまりはまた人間に戻るってことか。
兄貴のガンデは大丈夫ですとは話していたが、やっぱりジールは気がかりだってことで、ここでチビと共に看病とお留守番。
イーグいわく、餌を置いた場所には特製の光る粉を撒いておいたって話だ。なんでも海で採れる夜光虫ってものらしい。しばらくすると足跡が光るんだとか。
程なくしてずっと餌場を監視していたイーグたちから「かかった!」との合図が確認できた。俺とチャチャ。そして……うん。マティエとエッザールの二組に分かれ、挟み討ちにすることとした。正直チャチャと組むのは苦手なんだが「狂化したらとにかく頭を思いきり殴って気絶させてください」とエッザールはあっさり言ってのけた。いいのか? 俺が殴って死んでも知らねえぞ。
「やっぱりなんだヌ、崩落した穴を巧みにくぐり抜けて奥にアジト作ってるみたいなんだヌ」
そういえば初めてエッザールたちと組んで仕事したときも、奴らは地面の下に巨大な穴を掘って神出鬼没な襲撃繰り返していたな。
だがそんな目に遭うのは二度とゴメンだ。今度はこちらから打って出てやる!
……だが、この掃討作戦がこの先俺の、いやリオネングとマシャンヴァルの未来に大きく関わる事態になるだなんて、今の俺には全く知る由もなかった。
記憶の奥に埋もれていた、あいつがまだ姿を現すまでは。
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