いっぱいの夢、父の記憶
ってことで、ナウヴェルのところへ駆けつけた俺は、背負い袋いっぱいの星鉱を……いや、あれ、結局どれくらい掘り当てたんだ? 側で手伝いをしていたガンデもただでさえまん丸い目をさらに丸くして驚いてたし。
うん、祠との往復でざっと十袋くらいかな。ナウヴェルは腕がアレだから、逐一ガンデが鉱石を取り出しては、あいつに見せていた。
「驚いたな、混ざり物が一切無い純粋な星鉱……私もこれほどまでに美しいのは初めて見た」
あとで街の人から聞いたんだが、あの祠は別名「心覗き」って呼ばれているそうだ。
中でひとりじっと居続けると、どこからともなく声が聞こえてくるんだとか。それも自身の心をまるで覗かれているかのような質問をされて、しまいには頭がおかしくなってしまうらしい。だからああやって厳重に鍵がかけられているんだそうだ。
いくら星鉱が採れる場所とはいえ、決して一人では入ってはいけない……とか様々な取り決めがあるらしく、今回俺たちが入るにも裏でいろいろすったもんだあったらしいし。
「お前はあそこでどんな声を……いや、そんなことを聞くのは野暮だったかな」
「声はしなかったぞ、ひたすら俺は俺自身と問答してただけだ」
そう答えるとナウヴェルは「うむ、その自身とやらが星鉱の声だったのだろう」って。しかしそうは言われてもよく分からねえな……俺の声が俺じゃないって……ダメだこういうのは。
「ざっと換算したのですが、これだけ星鉱があればラッシュさんの斧は数本造れちゃいますね」
マジかよガンデ。つまり採りすぎたってことか。
隣ではナウヴェルがお前らしいな、と笑いを噛み殺していた。
寡黙なあいつがここまで笑うのもすげえ珍しいな。
だが……余らせた分はいったいどうすりゃいいんだ?
「そうだな、私にいい考えがある」
それはつまり、リオネングにいた時にお世話になった人たちにナウヴェル特製の品物を贈ろう。ってことだ。
ルースやトガリ。いやそれよりまずはシェルニ王子とネネル……いやエセリア姫の分から。そしてジャノにフィンとパチャとラザトに、あとはディナレ教会。そして……
「ジールの分もな」
「そうだな、あいつだったら投げナイフ数十本くらいプレゼントすればいいんじゃねえか?」
「ラッシュ、年頃の女性に武器を渡して喜ぶと思うか?」
「え……?」
そうなのか? あいつがいちばん喜びそうなものはそれじゃないかなと思ったんだけど……不正解なのか?
「ラッシュさんは女性の心を勉強する必要があるかもしれませんね」
なんかガンデがクソ生意気なこと言って来やがったから、一発頭殴って黙らせといた。
あ、そうだ。ガンデといえば……一つ聞いとかなきゃいけないことがあったんだ。
「おい、お前リオネングに来ないか?」
「え、なんでそんなことを?」
つまりはこうだ。ジャノもそうだったけど、あいつの親父……つまり正真正銘のガンデ親方の眠っている墓があそこにはある。一度俺たちとリオネングに行き、墓前にあいさつでもと俺は思ったんだ。
だが……あいつの、息子の心は頑なだった。
「最初はそれも思いました。けど……生まれてこのかた、私は父の顔を一度も見たことがありません。いや、それよりも私の中には父親という存在そのものが無いんです。だから突然父と言われても、全く実感がなくて」
ごめんなさい。とガンデは俺に深々と頭を下げた。
そうだった、迂闊だった。確かにこいつらには親父という記憶を、感触をハナっから持っていなかったんだ。あるのは、そう……おっ母であるジェッサとジャノたち妹。それが家族。
親方の息子には確固たる信念がある、それはきちんと尊重しなけりゃな。それに……
こいつにとっては、ナウヴェルが父親なのだから。
「でも、これだけは言わせてほしいんです」
突然なにを言い出すんだ?
「ラッシュ……兄さんと呼んでいいですか?」
かあっと熱くなる胸の内を押さえたまま、俺はなにも言わずガンデの身体を抱きしめた。
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