達人

ということで、俺とチビは伝説の星鉱を採掘するために、また穴の中へ潜ることとなった。

てっきりガンデのやつが同行してくれるのかなと思ったが、あいつはあいつでナウヴェルの手伝いやら指導やらでまだまだ手一杯なんだそうだ。


つーか星鉱っていったいどういう石なんだ? 名前からしてキラキラしてるイメージしかないんだが……見本くれるんだろうなオイ。

「そんなものは無い。お前自身がその目で見つけ出せ」

……と、師匠からあっさりと返された。いやちょっとそれひどくねえか?

「というのも酷ですから、その道のプロを呼んできました」

ガンデが指し示したそこに、小さな人間のジジイがいつの間にか立っていた。

ぱっと見、かなりの年齢だ。頭の側面にちょこっと白髪が生えてるだけで、目玉も加齢で真っ白。顔はシワとシミだらけ。おまけに腰はかなり曲がっているしで、プロというには……いや、ガンデだってこの道のプロなんだし、そこら辺の素性の不明なジジイを連れてくるわけはない。


「おめーさんが新入りか。バシバシ鍛えてやっから覚悟するんだな、ガハハハ!」

その豪快に笑っている口には、ほとんど歯はなかった。

「ラッシュだ、よろしくな爺さん」

「バウランじゃ。よろしくな新入り」

ぐっと握手をする……なるほど、節くれだった小さな手だが、とにかく硬い、親方の拳並みだ。

「ふむ、お前も獣人か、しかもなかなかの身体つき。こりゃ教えがいがあるのぅ」

「爺さん、手を触っただけで分かるのか?」

「おうよ、ご覧のとおり坑道暮らしで目は全然見えなくなっちまったがな、それ以上に他の感覚が研ぎ澄まされてきたのじゃ。もちろん……」

バウラン爺さんの皮袋を握りつぶしたような顔が、ニヤリと笑みを浮かべた。

「お前がかなりの数の人を殺ったこともな。さしずめ歴戦をかいくぐった傭兵……じゃな?」

その言葉に、俺の背筋にゾワッと寒気が走った。

分かる……こんな風体だが、このジジイ相当の手練かも知れない。


「ナウヴェルほど長生きはしておらんがな、わしもそれなりの生き方をしておった。まあいつか機が熟したら話そうかの、ガハハハ!」

と、今度はジジイは俺の隣にいたチビと話しはじめた。

「おじいたん、これなんに使うの?」

「うむ、これはこうやってな」

側から見てると、まるで孫みたいだ。

もし親方が生きてたら……って、やめよう、湿っぽくなる。


「ちょっ……ジッちゃんこんなとこにいたの? まだケガ治ってないからあれほど動くなって言ったのに!」

今度は……って、ジール!?

突然部屋に駆け込んできたのは、ここ最近ずっと魂が抜けた状態だったジールのやつだった。しかも話し方からしてジジイのこと知ってるみたいだし。


「なんじゃジールか。わしゃもう大丈夫じゃわい。年寄り扱いするな!」

「ふざけないでよ、昨日まで死ぬ死ぬ言ってたクセに!」

「わしがそう簡単に死ぬと思うか?」

「いや、そうじゃなくて……ジッちゃんにいま死なれたら困るのは私なのよ! つーかラッシュいるならなんか言ってあげてよ!」

「ジール……この爺さんと知り合いなのか?」


えっ、といきなりジールは口ごもった。

「なんじゃジール、お前この男と付き合ってるのか?」

「いやいやいやそんなワケないから、ただの仲間だから!」

「それにしちゃあどうもおかしい態度じゃな。正直に言ってみぃ?」

「だ! か! ら! 私とラッシュはそんな関係じゃなくて!」

うろたえるジールの頬を、ジジイはくいっとつねった。


「わかっとるわい。お前が心に決めた男くらいは」

「いたた! やめて、それ言っちゃイヤ!」


なんなんだこのジジイ……星鉱採掘のプロといい、ジールのことにやけに詳しいし。

まあそんなことはいいとして、今はさっさと採掘の方法教えてもらいたいんだけどな。

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