お世話になったあの方に

さて、鍛冶屋の継承が終わればすぐに仕事開始だ。

とはいってもしばらくの間はガンデの方が師匠にあれこれ教えることとなるみたいだ。妙な感じだな。

しかもこの町の連中からは、ナウヴェルを代表にしようって話も出てきている。

なんでも前町長はナウヴェルとエッザールがこの街に来た時、あの二人をマシャンヴァルに売り渡した黒幕だとか……もちろん身ぐるみ剥がされた挙句ここを追放ということになった。ひでぇ話だ。だからこそ今度はクソ真面目なあいつを推薦ってワケだ。


快諾した以上、休む暇もない……いや、サイ族はもともと疲れ知らずだしいつ寝てるのかすら分からないくらいだし。この燃費の良さであちこち傭兵に駆り出されていたくらいなんだ。いやはや、俺からしてみればそんな役回りだ……


「最初に私の武器を贈る相手はもう決めている」

「へえ、いったい誰だ、マティエあたりか?」

「いや、彼女は固辞した……やはりあの槍には由緒ある想いが刻まれているから、と」


じゃあ後は……

「エッザールだ。あいつには今回いろいろ大変な思いをさせてしまったしな」

なるほどな……そういや剣から何から全部取られて、挙句の果てに敵どもの武器の材料にされるために溶かされちまったんだっけか。未だに精神的にダメージ大きく引きずってるしな。確かに妥当だ。


次も、その次も全部決めていた。

チャチャの武器をもう一度鍛え直し、そしてイーグの剣を造ると約束してくれた。もちろんあいつは大喜びさ。

「しかし、まだ足りぬ……」

「どういうこった? もっと仕事したいとか?」

あいつは溶岩のような両腕を空に掲げ、俺にこう言ったんだ。

「ラウリスタの血が欲しているんだ……」ってな。

つーかまるで戦士か人斬りだな。要求するものが戦場か武器の違いなだけだ。


……って、あれ、なんか忘れてねーか?

「ジールか? あいつも私に手間かけさせたくないから武器は要らないと話していたがな」

「そうは言ってもな、餞別にナイフの一本くらい作ってやっても……な?」

お前らしくない願いかただな、と深い皺の奥であいつは笑ってくれていた。

そうだ、ナウヴェルとはここでもうお別れなんだ。

まあ死ぬわけじゃないからいつでも会うことはできるけど、戦いで肩を並べて……という思い出はもう過去の物語になってしまう。

悲しくはないが、なんかこう……いい相棒を失っちまったみたいで、胸にちょっぴり風穴が空いた感じだ。


「ひとつとして同じ季節も、毎日というのも存在しない。出会いというのもまた同じではないか、ラッシュよ」

俺の胸の内を読んでいたかのように、ラウリスタの刀工はぽつりと言った。

「私は戦うのをやめるだけだ。これは古来より連綿と継がれてきたラウリスタの血の掟でもある、それに……」

エッザールの剣を鍛える右の拳に、更なる力が込められた。


「お前たちが生きている。それだけで私は充分心強い」



そうだな。離れていてもその思いは伝わってくれる……それは俺だけじゃない、ナウヴェルも、そしてみんなも一緒だ。

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