継承 その4
まるで火山の溶岩の手袋を身に付けたようだった。
両肘あたりまで覆われたその手袋……いや、ちょっと大きいから腕鎧かな。ずっと煙を上げ続けていて、こりゃ日常生活にも苦労しそうだってイメージしかなかった。
さて。これでナウヴェルはラウリスタになれたということは分かったにしても……だ。この腕にいったい何の意味があるんだ?
えっ? とあっけに取られた顔でガンデは俺の顔を見てる。
「ええと、つまり、この腕が……」
「いいさガンデ。こいつには口より目で直接解らせる方のが手っ取り早い」とナウヴェルが口にするやいなや、いきなり真っ赤に燃え盛る炉の中に左手を突っ込んだ。だがあいつは熱さに顔をしかめることもない。
なるほど……そういうことか!
あいつが炉の奥から取り出したのは、まだ形状すら成していない赤熱したままの鉄の棒、それを……!
あろうことか、己の拳で直接叩き……違う、鍛えたんだ。
そうだ、これはすなわちナウヴェル……いや、ラウリスタの両腕を手に入れることが出来たからこそ成し得た技!
ハンマーもなにも必要ない。それを自身の手で取り上げ、さらには燃える繊細な手指で鍛え、造り上げる……
「なるほどな、自分の手だけで全てできるってことか」
「ああ、だがこの両腕を持ってしても、大ラウリスタの力には遥かに及ばぬ」
後から聞いた話だが、初代ラウリスタ……けどあいつは敬意をもって大ラウリスタと呼んでるんだが。
つまり千年以上前の神代の時代にその銘を受けたサイ族のお偉いさんは、なんと全身が赤熱する鉄に包まれていたんだそうだ。つまり鉄鉱石さえあればいつでもどこでも武具を造り出すことができたらしい。すっげえ便利な身体だったんだな。
ちなみに先代のラウリスタ、いや、今はワグネルだったか。あいつの胆力を持ってしても左手に鐡をまとわせるのが精一杯だったらしい。
ナウヴェルに全てを譲ると約束したワグネルは、左手を切り落としてこの場を去ったそうだ……床に広がる血痕はあいつのだったんだ。
だが、と一拍おいてナウヴェルは俺に言った。
「私はまだあいつを許したわけではない。それにあいつも全てを捨てたわけではない」と。
あいつは絶対にこの世界に対して復讐を企てているに違いない。つまりは……
「きっと、あいつはマシャンヴァルに身を置くだろう……ラウリスタを手放したとはいえ、継承された記憶そのものは刻まれている。きっとまた新たな力を得る……その時は」
ナウヴェルはぽん、と俺の肩に手を置いた。
「いかなる理由であっても許すな、一息にあいつの命を断て」
いや、その……ナウヴェル……
めちゃくちゃ肩が熱いんだけど。
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