ラウリスタは語る
ナウヴェルの巨大な拳が、ぎりっと音を立てた。
「やはり、お前が全て仕組んでいたのか」
普段は温和なサイ族の、しわに埋もれた目には怒りの感情が見えていた。矢のように射すくめるような鋭い眼光と共に。
「だとしたら、どうする?」
ふふっと、対峙するナウヴェルを嘲笑するかのように、鼻息でせせら笑う。
「ラウリスタの掟に背いていると言いたいのだろう? ナウヴェル」
巨大な槌をそしてまた振り下ろす。
左手で掴んだ真っ赤な槍が、そのたびにかたちを成してくる。
だがナウヴェルは一向に口をひらこうともしない。
真一文字に固く結ばれた、厚い唇。
「最初に話しておく、これは私利私欲ではないことをな」
「(でなければ、なんだ?)」小さく紡ぎ出したその言葉は、おそらく今を生きている数ある種族に聴き取れるものではなかった。
「(ラウリスタ……いや、私自身に出来うること全てをやりたかっただけのこと。武具を生み出すことなぞその副産物に過ぎぬ)」
「お前の愛弟子にはその事は話しているのか」
「いや、恐らくは自身が心乱したと思っているだろう」
「いいのか、それで」
ああ。と巨大なツノが縦に揺れた。
また、槌が武器たちを鍛え出す。
「歴史を生み出す事はできるか? 我々は」
「この私にそれを答える意味はあるのか?」不意の問いかけに、ナウヴェルは戸惑った。
「相変わらず頭が硬いな。まるでこの鋼たちのようだ」
「ワグネル、お前こそ世俗に毒されてきたのではないか。さっさと答えを言え」
深い呼吸のあと、星の鍛冶士はゆっくりと立ち上がった。
やや肉の落ちたその身体は、ホワイトグレーのナウヴェルとは対照的に鈍い黒鉄色を放つ体表。
だがその左腕の肘から先だけは、噴き出した直後の溶岩のように赤黒いひび割れた輝きを漏らしている。
ワグネルは重そうに、熱を帯びた左手をぐっと同胞のツノの先へと向けた。
「これが全て終わったら、ラウリスタはお前に全て渡そう」
ナウヴェルの戸惑いが加速する。
「いきなり何を言いだすんだ?」
「私が創り出したものがもうしばらくすると目を醒ましだす。それが全てだ」
拳に込められた怒りが、繋がれていた太い枷と共に千切れ飛んだ。
「ワグネル、お前は……!」
「挑んでみるがいいナウヴェル。いかにせよお前たちは勝つだろうさ。だが……」
「だが、万が一にでも敗北したら……?」
「案ずることはない。ラウリスタはここで終わる」
瞬間、地響きが部屋を大きく揺るがした。
「魅せてくれナウヴェル。お前の最後の戦いぶりを」
くいっとあごの先で部屋の隅を指す。そこには長く巨大な、そして棘が生えているかのように荒く鋭く削られた鉄の棍棒が転がっていた。
「純度の高い星だけを集めた重鉄棍だ。いつか来るお前のために造っておいたものだ」
「用意周到だな」
「……怒らないのか。私はお前を試したいのだぞ?」
その言葉に、今度はナウヴェルの鼻がくすりと笑った。
「私を想ってくれた。それだけで嬉しいのさ」
鉄棍を肩に下げ、白い巨体は光差すもとへ、ゆっくりと歩み出した。
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