強大な敵
エッザールの手足は鎖で繋がれているが、それ以外に目立ったケガとかはなさそうだ。
「ラッシュさん、一体どうしてここへ?」いやそれは俺の方が逆に聞きたい。
とりあえず話はあとだ。枷を引きちぎって早くこの人獣どもを一匹残らず退治しないと!
その時だった。「がワーッ!」と、気絶していたチャチャが謎の叫びと共に飛び起きた。
「あれ、みんなどうしてこんなところに集まっているんだヌ? みんなどこ行ったんだヌ?」
「チャチャ……お前こそなんでこんなところにいるんだ?」
「その声は、エ……エッザーーーーーーールなんだヌ?」
おいコラ。お前ら知り合いだったのか?
「は、はい……チャチャのいる村は結構近かったもので」
「そうだヌ。エッザーーーーーールとはことあるごとに剣を交えていたんだヌ。つまりはライバルなんだヌ」
ああ、あるほどね、そういう関係か。けど積もる話は後にしてもらいたいんだがな。
「ここを支配していたリーダーのゲイルって人が人獣たちに言ってたんです。手荒に扱ったら承知しないぞ。って……人間なのに、私たち獣人には結構寛容な人みたいで、憎めないんですよね」
なるほどな、やっぱりあのクソ野郎が一枚噛んでたか。
「そのゲイルって奴な。元は俺らと同じ獣人だったんだ」
そう言ったらエッザールは目をまんまるくして驚いてた。まあしょうがないかも知れないな。っていうか俺もまだマシャンヴァルのその秘術とやらはにわかに信じがたいんだが。
「あまり、戦いたくない方ですね……それが分かってしまうと」
「分かってるさ、だが俺たちの国……いや、この世界を支配しようとしている敵国にあいつはもう寝返ったんだ。身体すら人間に変えてな。いつかはこの手で始末しなきゃいけない。それだけは肝に銘じておけ」
「あの、ナウヴェルさんも見つけてもらいたいのですが」っとそうだな。ガンデにはもう一つやるべきことがあったんだった。
「おそらく……この岩山の奥に巨大な炉があるから、あの人もそこにいるかも知れませんね」
エッザールいわく、星の鉱石を大量に使うためにここの町民を使って建設していたそうだ。
たくさんの武器や鎧を作るための大きな炉を。そしてお目当てのラウリスタってぇ奴もそこに……!
「あの鉱石を鍛えることができるのは、ラウリスタ師匠しかいませんから……お願いします!」
ガンデが俺たちに大きく頭を下げた時だった。突然、ドン! と空気が、いや地面までも大きく震えた。
マティエたちがいた病院の方角だ、あそこには大通りがあったはず。
「ま、まさか……」そして、ガンデの声も震えていた。
「なにか知っているのか、ガンデ?」
「きょ、巨大な化け物です……」なんだそれは?
「師匠の手伝いをしていた時、奥の広間で見たことがあるんです……あの兵士たちの身体を寄せ集めて、一つの巨大な化け物を造り出しているところを!」
やがて土煙りの中から姿を現した、その巨体。
何人もの人獣どもがそいつをここに出そうと、太い鎖で懸命に引っ張っているのが確認できた。
そうだ、俺はついこの前そいつの醜悪な姿に出会ったことが、いや戦ったことがある。
しかしあの湿原にいた化け物より何倍もデカい。いびつな作りの手足に限ってはまるで岩石から削り出したかのようだ。
そしてその身体の至る所に……そう、継ぎはぎのような板鎧が埋め込まれていた。
「あいつ……やっぱりマシャンヴァルの造った化け物だったのか!」
「ク……ククク」隣で妙な笑いを浮かべていたチャチャが、またヤバそうな目つきへと変貌していた。
「強大な化け物だヌ……すなわち相手にするには最高の敵なんだヌ!」
両手の爪を大きく広げ、あいつは空に向かって舌を伸ばし、大きく吠えた。
「アンティータの舌が大きく騒ぐんだヌ! イシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
……と、俺たちを置き去りにして猛ダッシュで、あいつは化け物の方へと行ってしまった。なんなんだあいつは?
「アンティータの民は普段は温厚なのですが、ひとたび乱戦で興奮してしまうとあんな感じに変貌してしまうのです」
「すっげえ好戦的なんだな……」
「ええ、だからさっきみたいに気絶させないと、死ぬまで誰彼構わず……」
もしかして俺以上にやばいんじゃないか? と思いつつ、俺たちはひとまずナウヴェルを探しに行くこととした。
「チャチャならあいつ一人でなんとかなります」
涼しい面持ちでエッザールは言ってのけた。要はそういうことだ。
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