失踪事件

どのくらい眠ったのかは分からなかったが、とりあえず朝の日差しがやたらと眩しかったことは確かだった。

相変わらずムスッとした顔のマティエが「話がある」と俺を揺すり起こしてくれなければ、ずっと寝入ったままだったかも知れないし。

やたらと長くて皮の硬いパンをバリバリとかじり、俺たちは彼女の話に耳を傾けた。

「刀工の失踪事件が相次いでいるとの話を上の者から聞いた。もしかしたら、ナウヴェルの行方の手がかりになるかも知れない」

「んと、それってここだけの話か?」と風呂から上がったばかりのイーグが、汗を拭きながら聞いてきた。

「いや、マシューネだけの話ではないみたいだ。近隣のパスラやオヴィールでも同様の失踪事件が起きているとのことだ」

しかも、これらの話を総合すると……刀工だけでなく、普通の鍛冶屋まで突如としていなくなってしまったらしい。

「さらってきた人たちを一ヶ所に集めて……うん。よくある話かも」

テーブルの向かいでは、もう食事を済ませたジールが、コーヒー片手に見解を述べた。

そうだな、どこぞの盗賊団が自前の武器を大量に作るためだけに鍛冶屋を集めて……ちょっと現実味に欠けるかもしれないが、それこそあり得る話だ。


けど、マティエは昨晩城に行って例の怪物の報告をしに行ったんじゃねえのか? それとこれとは話が違うし。

「その件なんだが……ここから東に行くとエズモールという街がある。またの名を鉄の街だ」

マティエいわく、この前怪物に襲われた隊商はこの街を経由したんだとか。でもって湿原で……と。


うん、だんだん俺の頭じゃついていけなくなってきた。

そんな俺の頭の中を察したのか、マティエのやつがいきなり俺の耳をぐいっと引っ張ってきやがった!

いてえ! 耳なんかつかむな!

「まだ分からないのか!」

悪いな、全然分からねえし!

あいつは静かに怒っていた。それに鼻息めちゃくちゃ荒いし。

「お前の持っているあの大斧……なぜあれが怪物に致命傷を与えることができなかったのか、私は一晩考えてたんだ!」


え……?


「怪物が身にまとっていた鎧と、お前の斧……恐らくは作り手からして全て同一人物によるもの。だから斬ることはおろか、傷一つつけることすらできなかったのだ」

ちょっと待て、それって、もしや……!?


「そうだ、あの怪物の鎧は……お前には悪いが、エセ刀工のワグネルの作ったものだ」

「バカなこと言うンじゃねえ! 同じ作り手だと反発し合うとても言うのか?」

だってそうだろ? 少なくとも俺の斧は最高の切れ味を誇っている、だがそれが全く役に立たない原因が「同じ作者」だからだと? 意味不明すぎる、ふざけたこと言うな!

「じゃあ逆に問う。なぜ私の槍は怪物の鎧を紙のように切り裂けたのだ?」

「え、斬ること出来たんだ」

「な、お前……見てなかったのか?」

「見てるワケねーだろ、俺はずっと気絶してたんだし」


「あ……そういえば……」


そのあと、あいつは珍しく俺に頭を下げてきた。

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