旅立ちと親心
さて、と。いろいろゴタついちまったが、俺らはラウリスタ……いや、ナウヴェルとエッザールを探しにここを出なきゃならない。イーグは馬も乗りこなせるし、こいつがいてくれるおかげでかなり助かった。
まあ、あまりことを大きくしたくもない。これは俺だけの問題みたいなもんだしな。
「あとは、チビだけか……」なんて、いそいそと荷作りしているイーグの前でつい心配な心が漏れちまった。
「大丈夫だ、ウチに預けときゃ安心だろ」
そういやそうだったな。こいつの奥さんは素手で暴漢を皆殺しにできたんだっけか。
「故郷の村で徴兵されてな、でもって俺っちとイローナは一緒の隊になったんだ」
あとはよくある話。そこであれこれあって、村に帰って即結婚ということだ。
……あれこれってなんだ?
「酒の席で腕相撲大会があってな、決勝でイローナに負けたんだ」
だがその直前、イーグは酔った勢いで「負けたら結婚でもなんでもしてやる」と豪語したらしい、あいつはそんなこと記憶すらしてなかったみたいだけど。
その腕っぷしを生かして洗濯から給仕から働きまくってた未来の奥さんに腕相撲で惨敗……。でも結果的には子宝にも恵まれて、夫婦喧嘩も勃発してないんだとか。
「ガチでケンカしたら俺、アイツに殺されるぞ……!」うん、確かにそうかもな。
だからこそイーグの家に預けておくのが最善策なんだ。
「おとうたん、どこいくの?」俺のお古の薄汚れて伸びきったシャツを寝巻き代わりに着ていたチビが、眠い目をこすりながら俺に聞いてきた。
「仕事だ、すぐに帰ってくる」
「ほんとに?」
「ああ、すぐだ。だからイーグの家でいい子にしてるんだぞ」
「ん……」去り際のあいつの目がちょっと泣きそうに見えたが……いや、気のせいだ。そうだ、気の……せいだ。
なんか、教会へあいつを預けた時みたいな、ずんと胸にのしかかる重し。連れて行くべきなんだろうか。
そんな重さを抱えたまま、俺とイーグは門を出た。
あいつが事前に調べたところによると、エッザールは巨大な馬車で西の門を出たとのことだ。目を凝らすと地面に深い轍がまっすぐに刻まれている。はるか遠くまで。
「エズモールって街があるんだ。おそらくそこに二人はいるぜ」
馬上で器用に地図を開いているイーグが、そんなことを言った。
エズモール……初めて聞く名前。だけどなぜそこに?
イーグは指を三本立てて、理由を話してくれた。
「そこは通称鍛冶屋の街って呼ばれてるんだ。世界中から修行やら伝説の武具を調べたいやらさまざまな理由でそこにワケありの奴らが集まって、いつしか職人だらけの街が出来上がったらしい。第二に馬車の道筋は寄り道もせずにそこへ一直線だ、間違いねえだろ」
そして三つめに……と言おうとした矢先だった。
はるか後方、つまりリオネングのある地平線の方から、黒い馬が全速でこっちに向かってきた。
ルースか……? いやまさか、あいつはずっと城にこもってて一度も顔合わせてないし。
まだ朝日も上らぬなか、俺とイーグは武器を手に戦う体勢をとった。
そうだ、例の人間もどきが追ってくる可能性だって……ってあれ?
「おとうたーん!」
馬上から響くチビの声。それに……なぜかマティエとジール。
え、どういうこと……?
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