悪酔い

ということだ。仲間はイーグだけでいいだろう。どうせ対して長くなる旅でもないし、賑やかなのは苦手だし。

ルースといえば、城に戻るなり王様のところへと駆けつけていったまま。相変わらず予断を許さない状態らしく、トガリの故郷から持ってきた薬をいろいろ調合してるって話だ。となるとあいつは連れていけない。うん、身体も治ったことだしな……と、イーグが帰っていろいろ考えていたら、突然玄関のドアがドン! と蹴り開けられる音がした。

泥棒でも来たか? と大急ぎで降りると、そこにはジールともう一人。

……えっと、誰だっけ?

食堂の奥を見ると、厚く頑丈な木で作られていたドアが思いっきり吹き飛ばされていた。それも粉々に破れているおまけ付きで。

「んあ? 誰の家だここ?」

「もう、何やってんのよ! ここラッシュの家よ。開かないからってドア蹴り破ることないじゃない!」

思い出した、つーかここ最近会うことすらなかったヤツ。

真っ黒な毛並みに真っ白な髪、そして俺に勝るとも劣らないゴツい身体。

……間違いない、マティエだ。あの性格悪くて行け好かないオンナ。

これがラザトとかなら数発殴りたいところなんだが、ここはグッと堪えて。

「どうしたんだこいつ?」二人の元に駆けつけると、めちゃくちゃ酒臭い。

つーかこの大女、確か酒は控えてるんじゃなかったか? 以前俺と大ゲンカしたのを機に。

「私にもわかんないよ。たまたま通りがかった酒場で聞いた声するなと思って入ったら、彼女が酔いつぶれてて……」

え、こいつジールより酒豪じゃなかったか? って疑問をぶつけたら案の定、昨晩から延々一人で飲み続けていたらしい。それも強い酒ばかり。

「ラッヒュかあ? お前どーしたんだこんらトコれ」焦点の合わない目にロレツの回らないしゃべり。吐息を嗅いだら俺まで一撃で泥酔しちまいそうだ。

「ここは俺の家だぞ、寝ても構わねえがドアの修理代き……がっ!」

言い終えぬうちに大女の頭突きが俺の鼻先に命中した!

「フザけんなラッシュ! おまへこの前の旅でルースになにをしたらぁ!」

「……ふぇ?」何言ってんだコイツ?

「だから落ち着いてよマティエ! ルースとラッシュは仲良いからってあんたの恋の邪魔なんてすると思う?」

「黙ってろジール! つーかお前もなんかしらろ? ルースが帰ってきて以来な……!」

ジールの胸ぐらを掴んできた、こりゃヤバい。

と、俺はマティエを引き剥がそうとしたんだが、今度はわぁあと突然ジールの胸の中で大泣きし始めた。

「なんれ……なんであんなに素っ気なくなったんだ……! 結婚を約束したのに、全然あたしの方に見向きもしなくなって……!」

大女ゆえに声のでかさもかなりのもんだ。なんだなんだと窓からドアの向こうから野次馬が大量に俺のとこをのぞき始めてきた。


暴力の次は泣き上戸か……ほんと面倒臭い女だな。

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