ラウリスタを探して
こうしちゃいられない、と俺は大急ぎで部屋に戻り荷造りを始めた。
目的は一つ。いや二つか。ジャノの兄貴であるガンデと、ワグネル・ラウリスタを見つけるためだ。
「どーやって?」振り向くとそこにはジールが。
「つーかさ、そこまで勉強してないからかも知れないけど、世界は広いんだよ? その中からたった二人の居場所を探すって無謀過ぎない?」
言われてみりゃそうだった。足取りに至ってはほぼ知らない、オマケにジャノだって何年か前としか曖昧な感覚しか持ち合わせてなかったし。
あきらめろとは言わない。けど目的を持っているのならきちんと過程を整えろ。どうしようと呆けている俺に、ジールはそう付け加えた。誰の言葉だそれ?
「んー、誰だったかな、あたしの母さんだったような気がする」
まあ、そんなの別にいいか。
ってことで俺の旅路は振り出しに戻っちまったが……他に相談すべきか、そうだな、こういうときはワグネルの同胞のナウヴェルに聞くべきか。
「あいつならエッザールと一緒に出かけてったじゃん。お前すっかり忘れてるし」
ちょうど家にパンを届けに来たイーグが、そんなことを言ってきた。
「え、そうだったか?」俺はトガリたちと出かける前の晩のことを必死に思い出していた。
……そういえば、直前まであいつは俺たちと一緒に行く予定だったのが、直前になって……いや、そこから先が思い出せねえ!
「俺っちとラッシュにいきなり頭下げたじゃねえか、申し訳ない、ナウヴェルの旅について行きたくなったんだって」
……やべえ、すっかり頭の中から抜け落ちてた!
そうだ、確かエッザールの奴、自分の持ってる家宝の件のルーツを知りたいっていうんで、ナウヴェルに同行するって言ってたっけ。あのとき俺も準備で忙しかったから、いい報告を期待してるぜくらいしか返せなかったんだ。
思い返してみたら、エッザールの持っている剣もラウリスタの作。つまりはあの二人の向かう先は!
……どこだ?
「まあ、お前には到底見当つかねえだろうな」あきれ顔でイーグは俺の方をポンと叩いた。
「イーグ、お前には分かるのか?」
「当たり前だろ? こう見えても俺は元斥候だぜ?」
そうだった! こいつは軍にいたとき、敵側の追跡とか捜索をやっていたんだっけか。
「察するに二人は専用の馬車を使っていったはずだ。ナウヴェルのあの巨体だからな。それに前日まで雨がけっこう降ってて地面はかなりぬかるんでいた……言いたいことは分かるな?」
ああ、と俺はうなづいた。
俺も斥候なんてプロの仕事は請け負ったことはないが、オコニドの連中の潜む先とかを足跡から辿っていったことがあるし。
そう、轍だ。
それもナウヴェルのために誂えられた専用の巨大な馬車。当然車輪だって厚く大きく造られている。地面に刻まれた車輪の轍も深く、早々に消えることなんてないはずだ。
「俺なら一ヶ月前の普通の馬車の轍だって見分けることできるぜ」そう言うとイーグは、ニヤリと俺に笑みを向けてきた。
「まだ店の仕事もヒマだしな。付き合ってやってもいいぜ」
ありがとうな、持つべきものは戦友だ。
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