家族だなんて言えないけど

「ちょうどいい。みんな揃ったことだし」ということでルースは……


全てをジールたちに話した。

砂漠の盗賊をやっていたジェッサのこと。

彼女とかつて傭兵仲間だった……そう、親方のこと。

今はどこに存在するかも分からないオルザン、つまりはマシャンヴァルの地で起きた数々の怪現象に二人が遭遇したこと。

親方のことはほとんど知っていたと思っていた俺ですら知らなかったこと。

その地で片足を失い、精魂尽きかけていた親方にずっとジェッサは寄り添っていたことも。


俺に教えてくれたことはみんな嘘だったというのか!?

戦場の掃除で槍を踏んづけちまったことも、ずっと独り身だったということもだ!

「仮説にしかすぎないけどさ……おやっさんはラッシュを育てるのに不用なものを見せたくなかったんじゃないのかな?」

「不用なもの?」俺の傍らでポツリと、トガリはつぶやいた。

「うん。全てはおやっさんにとっては思い出したくない過去だったのかも。だからこそ一人息子であるラッシュにはあえて言わなかった……足のことだってそうだと思うよ」


いや、そうは思えないんだけどな。

俺の解釈としては。ただ単に親方はいちいち説明するのが面倒くさかっただけなような感じするんだが。

まあいいや、とりあえず「そうかも知れねえな」とトガリには相槌を打っておいたけど。

「でさ……俺のおっ父ってリオネングってとこにいるんだろ? 今どうしてるのさ?」

ジャノの言葉に、俺は隠すまでもなく死んだと答えた。

「え……」

「死んだよ。老衰でな。お前の母ちゃんと違って人間ってのはそれほど長く生きられるようには出来てないんだ」


静寂の中、全てを悟ったかのような、ジャノの深いため息だけが聞こえた。

「うん、まあそうじゃないかなって思ってた。俺もずっとおっ母に拾われたって言われ続けてたし。だから……」


ぽたっと、ジャノの金色の瞳から涙がこぼれ落ちた。


「あんまり……悲しく……ない」


ぐっとあふれ出そうな思いを押し堪えていた。

けど、ずっとこの世界のどこかにいる親父がすでに冷たい土の下にいるってことを聞かされたんだ、辛くないわけがない。

「どうしよう、俺……おっ母になんで言えばいいのか、リオネングに行っても全然意味ねえじゃん……どうしたら……」


たまらず俺は、ジャノの手をぎゅっと握りしめた。

「俺たちと一緒じゃダメか?」

「え……?」

その手の上から、パチャが、ジールが、イーグが、アスティが……いや、仲間全員が包んでくれた。

「僕たちじゃ亡き親方さんの代わりにはなれませんけどね。でもあなたのいい相談相手にはなれると思うんです」

「相談相手はちょっとな。せめて仲間にしねーとな」


そしてジールの細い指が、俺の肩をぐっと抱き止めた。

「ジャノ、ここに素敵な兄貴がいるじゃないの。血はつながってないけどね……けどここにいるみんなが兄弟、家族って思ってもいいんじゃないかな?」

「いい……の? みんな兄貴で姉貴で弟で妹でいいの?」

ジールとパチャ、そしてロレンタはにっこり微笑んだ。

そうだな……傭兵として組んで、こうやってみんなで旅をして。ある意味こいつらは仲間以上の家族なのかも知れない。

「ジャノおねえたん?」

と、ずっと俺を避け続けていたチビも加わった。こいつも家族の一員だしな。


「え、ちょっと待った、この子ラッシュ兄貴のことお父さんって言ってなかったっけ? つーことは俺は兄貴の妹でこの子の……なんなの?」

唐突にジャノが意味不明なことを繰り出してきた。知るかそんなこと。


「ということでラッシュ。帰ったらジャノの教育係、頼むわね」

ジールの悪戯な笑みが俺に向けられた。最悪だな……

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