超めんどくさい奴

「え、いやその、俺……じゃない私は生贄で来たのであって、えっと」

ダメだ、いきなり俺の核心突かれて焦りまくりで噛みまくりだ。せっかく声色変えて話し方もどうにか習えたっつーのに!

「わ、か、る〜?」ぐにゃりと伸びたズァンパトゥの頭が、俺の目の前へとさらに迫ってきた。

「ボクさぁ、いわゆるキミたちと同じ感覚っていうのを持っていないんだ。だから、目なんてほらね?」

映し出されたやつの両目が大きくなったり小さくなったり、けどやっぱり夜の闇のように真っ暗な穴だ。

「つ、つまり君は目が見えないってことなのかい?」

「ん〜、見えないし聞こえないけどね、でも見えるし聞こえるよ。さっき話してくれたじゃない。ボクのいる次元とは全て概念が違うのさ、デュノ君」

「な……!?」割って入ったルースが絶句した。

こいつ、ルースのことを知ってた?

「分かってるさ全て。あんな人喰いなんかと一緒にはしないでもらえるかな?」

……ああ、ダジュレイのことか。


首を戻したズァンパトゥは、目らしき穴を細め、嬉々とした表情で俺たちに言った。

「さ〜て、みなさんお揃いになった証に、アレをもらいたいんだけど、いいかなぁ?」

「へ……アレって?」なんなんだ? 生贄じゃなくて、また違う貢ぎもの?

「アレとはなんのことを指してるんだ? ザンパトッ」ルースがまた噛んだ。

「えええ、ボクの口から言うのもちょっと……ね」

くそっ、めちゃくちゃ面倒なやつに出くわしちまったな。パデイラの時みたく戦えた方がどんなに楽なことか。ネネルめ……


って、ネネル!? そうか!

俺はルースの背後に隠れていたチビを抱き上げ、奴の前へと差し出した。

「やだこわい!」いや分かるさ。けどちょっとだけ我慢な。

じたばた抵抗しているチビをどうにかなだめながら……「ほら、ネネルからの証だ、持ってけ」。

「ふふん、流石黒衣のラッシュだ。ボクの考え、すぐに分かってくれたね」

今度は舌らしきものを長く伸ばし、チビの手首に巻かれていたネネルの髪をプツンとちぎり取り、そのまま自分の口の中へ……

落ち着け、奴を完全に信用できるわけない。もしなにか変な動きでもしたら……って、武器は全部屋敷に置いてきたままなんだけどな。

もぐもぐと、まるで大好物でも口にしたかのように喜んで食ってる。そんなに髪の毛って美味いのか?


と、そんな考えを巡らせていた時だった。

またもや壁に亀裂が! しかし今度のが大きい。

ズァンパトゥの手足と癒着していた部分が崩れだし、離れたその先端が、手のようにべたり、と俺たちの前に。いや手というか、氷の棒を折ったみたいな歪なものだが。

つまり、俺たちはこの異形の解放の手助けをしたってこと……!? としたらヤバい!


「はい! 準備完了っっっ!」

でけえ。

上背がゆうに俺の倍はある。

高いところから着地したかのように手を挙げ両脚を揃え、ピシッと決めたその姿。

なんかもう……かなりヤバげな奴としか思えないんだが。


「さて、ボクの身体も戒めから解き放たれたコトだし。これから順次説明でもしようか、ね?」


うん、こいつ超めんどくさい。

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