最強の隠し味 その1
長老が言ってたな。タイムリミットは太陽が完全に落ちた時だって。
結局厨房に入ってるのはトガリとイーグとルースだけ。
でもって、しばらくしたらジールとアスティが深刻な顔で戻ってきた。奥の部屋でルースたちとなんか話してるようだけど俺にはあまり関係ないみたいだし、仕方ないからトガリの弟たちとチビとで遊ぶことにした。モグラのチビどもは村の連中とは一緒にいたくないんだとか。
「……つまり、特殊な香を使った……」
「証拠はこれくらいしか……」
「わかった、どうにか調べてみる」
とはいえ、否応なしにルースたちの会話は俺の耳にも入ってきちまうワケで。うん、やっぱり気になる。
「ルース、さっきからなんの話してンだ?」
チビを肩車した俺は厨房へと足を向けた。ヒマだし。
「え、あ……いや、なんでもない、よ」
「ウソつけ、髪がすげえことになってんぞ」
時折見せるルースのその癖。こいつイラついてる時は髪の毛をわしゃわしゃ掻きむしる癖があるとかで、案の定目の前にいるあいつの髪は、まるで焼け焦げたかのように大爆発していた。
「ルース、僕から説明するよ」
部屋の奥から小麦粉で身体中真っ白に染まったトガリが姿を表した。
やっぱりなんか裏事情があるのか……?
トガリが言うには、どうもあいつの仲間全員、誰かに操られている……か、もしくは集団で何かの術にかけられているとのことだ。
何かの術……ってなんだ?
「うん。それについては、ジールとアスティが調べてくれたんだ。ここの岩山の奥深くに村人が集会に使う大広間があってね、どうもそこに何かが仕掛けられたみたいなんだ。まずはサパルジェ長老。そしてアラハスの全員がね」
「それがさっき話してた、お香ってやつか」
ルースはコクリと大きくうなづいた。
「僕の嗅覚と記憶なら、ある程度なら匂いだけで分かる……これは嗅いだ人の思考能力を無くしてしまう強い毒草だ。服用したらすぐに昏睡死するほどの強いやつ」
そんだけ強い毒草だ。固めて燃やしてその煙を嗅がせて……それで死ぬことはないが、吸った連中はしばらくの間、半ば眠ったかのような夢うつつな状態になってしまう。俺たちがアラハスに着く直前、モグラ連中はその煙を吸わされ、到着した俺らやトガリを敵視するようになったと言うワケだ。
だから、別室で寝てたチビモグラたちは運良くその煙を吸うことはなかった……ってことか。
しかし、いったいどこの誰がそんな真似を!?
俺らが到着する前には、ここの連中はすでに催眠にかかっていた……つまりはそれより前に来た奴?
「……先遣隊!?」
「そーゆーコト。まああくまでも消去法で突き止めただけに過ぎない仮説なんだけどね。とにかく今は犯人探しより、ルースに何か薬を作ってもらわなきゃ始まらない。だからあたしたちは別行動してたってワケ」
そうして、ジールはいつもの軽いため息ひとつ。
「しかしなんでわざわざこんな手の込んだことをするんだか……僕らを足止めしていったい何の意味が?」
「ああ、アスティの言う通りさ。少しでも長く僕らをここに居させて、リオネングの土地の被害を拡大させるのが目的としか……」
とりあえずはそれは後回し。犯人探しは……そう、トガリの対決が終わってからだ。
「で、そのことなんだけど……」トガリがルースの脇から、申し訳なさそうな顔で現れた。
「どうしても他のもので補えない材料があって……」
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