黒き衣の真実 2
「すべての原因は……ラッシュ。お前にある」
ぴっと人差し指を俺に向けて放った、その言葉。
「……よく分からん、なんで?」
俺がなんかしたか? まさかこの前の火山の噴火とかが俺のせいだって言うんじゃねーだろうな?
「ああ、火山のことか。それもお前が引き起こしたようなものじゃ」
なにいいいいいいい!? ますますワケ分からなくなってきた。
俺がカミサマだったからか? だとしてもここまで非道なことなんてした覚えないし。
「本当に思い出せぬか?」
「……ああ」
胸元で心配そうな顔でチビが見ている。話そうにも話せない雰囲気なのだろうか。
「ならば。パデイラの魔獣……心当たりがあるな」
「ちょ、なんでお前がそのことを!?」
驚いた。つーか俺もすっかり忘れてた。
「ルースが兄上に報告書を作っていたからな。それにあいつは、ダジュレイは……」
ネネルの瞳がふと、遠くを見つめた。
「妾の善き理解者の一人でもあった……まあ、あいつはここに召喚されて以来かなりの非道を人間におこなってきたという話。正直いつかは天誅が下されると薄々感づいてはいたさ。だがラッシュ。お前に……いや」
ちらっと、チビの顔色をうかがいつつ「よもや御子が手にかけるとは思いもよらなかったさ、なあ?」
やっぱり、こいつチビのことを知ってたのか。しかもあのダジュレイと知り合いだったとは……!
「御子よ、久しぶりだな?」ネネルはそう言い、チビの小さな手を取った。
「ねねるおねえたん?」
「ああ、やっぱり覚えておったのか。光栄だな。もっとも妾のほうはエセリアの身体を借りているから、面影は全く無いが」ネネルのときおり見せるその笑顔には、妙な冷たさすら見えてくる。
「……お前の物言い、わっかんねーことだらけだな」
「ふふ、それはお前が無知で愚鈍であっただけじゃ。しかしそれは武器にもなり、だが己の首を絞める結果ともなる。どちらかといえばお前は前者かな?」
「バカで悪かったなオイ。いいから全部教えろ」
いいかげんイライラしてきた。情報をこうやってひらひらとかわされるのは俺の精神衛生上よくねーんだから。
「それを愚鈍というのだ。物事には筋道というものがある、まずはそこからじゃな」
コイツがルースだったら頭の形が変わるまでぶん殴ってやるとこだった。ああダメだ、ネネルの得意な話術。抑えろ俺の怒り。
ではまず……と、ネネルは軽く咳払いした。
「先ほどダジュレイは天誅を受けるべき存在とも話したが……いや、それは間違いだ。あやつは殺してはいけなかったのだ」
はあ? なんでだ?
あのバケモノはパデイラの住民を一人残らず。さらには討伐に来た連中も喰っちまったってルースやマティエから聞かされた。それにマティエの角……いやそれより王妃の命まで奪ったようなもの。俺はともかくとして人間にとっては始末されるべき存在だろ? それがなぜ殺しちゃいけないって?
「お前にしては聡明な質問。だがな、ダジュレイ……いや、この城で暴れまくったナシャガルにせよ、お前たちが生まれる何千年もの太古の昔から、彼らはこの地で人間どもの発展を見続けていたのだ。つまり言うなれば……この世界の監視役。とでも言えばいいかの」
「マジかよ、やつら妙に達観した物言いしてたと思ったら……」
「知のダジュレイ。この大地の支えにして、あらゆる知をつかさどるマシャンヴァルの侍者。そう、それをお前たちはかくもあっさりと殺してしまったのだ!」
言い放つネネルの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
だが俺にはまだまだ理解できない。そんな偉そうな奴が何故パデイラで暴虐無尽な人喰いまでしやがったのか。
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