告白

一方、チビはといえばすぐに双子と仲良くなれたみたいだ。どこかの地図を広げて、自分のいた島とか説明してる。

そろそろ、俺の手をわずらわさずに済む頃なのかな……なんて、ちょっと寂しくも思ったり。

そうそう、パデイラで突然変なこと話した例のアレなんだが、チビは全然記憶にないとのこと。ルースいわく、子供ゆえに何かに取り憑かれやすかったのでは……と話してるのだが、そのパデイラの主とは、あのバケモノの名前をなんで知っていたのか。とか結局分からないままだ。

鍵となるのは、あの時唯一持ち帰ることのできた本だけか。


「それですけど、ちょっと焦げちゃって……」と、申し訳なさそうにルースが言った。

そっか! あの時の火山で……!

「そういうことです。島で時間ある時に解読しようかなと思ってたらあの噴火でしたし。どうにか持ち出せたはいいんですが、かなり燃えちゃってて……」

事前にタージアが写していたらしいが、それでも全ては書ききれてなかったらしい。

「あの本の内容が分かれば、マシャンヴァルの謎にも少しは辿り着けると思ったんですけどね」


そうだな、あそこは敵国だというのにいろいろワケ分からんことだらけだ。

人獣というもはや人間性のカケラもない兵士の存在といい、ゲイルが人間の姿になれたことといい、そして……ネネルのこと。


あいつ、姫としてきちんとやっていけてるかな。

エセリアという支えがいなくなっても大丈夫かな……なんて。

そんな物思いにボーッとしてたら、突然パチャが俺の鼻先に木剣を突き付けてきやがった。

「ラッシュ、あたしとお手合わせしてくれねーかな?」

「へ? いいけど……なんでまた俺に?」

「決まってンだろ、兄貴より強いって聞いたからさ。直にやってみたいんだよ」


……そんなおてんば娘に請われるがまま、俺は渋々裏庭で手合わせすることとなった。

「パチャとか言ったな。お前どのくらい現場で戦ったことがある?」

「え?」

エッザールも言ってたな、こいつはそこそこ腕が立つって。つまりは戦闘……いや、傭兵としてどのくらいやっていたか、だ。

「え? じゃなくて。どのくらい斬ったことがあるか聞いてるんだ」

「……ないよ?」


「え??」思わずパチャと同じ変な声が出てしまった。

「全部兄貴に教えてもらっただけだよ。あとはあたし自身のアレンジ。人は殺したことないし、つーか傭兵の仕事もしたことない」


マ ジ か!?

それでよく俺に手合わせお願いできたな……


……………………

………………

…………


ー数分後ー

見事に土を舐めていた。いや、俺の方がだ。

「ラッシュ、なんか弱くね?」

ごめん、女だと思って、しかも戦闘経験皆無だと思って思いっきり手を抜いてた。しかも二刀流だし、開始と同時に足先から斬りつけてくるなんて、とてもトリッキーすぎて油断しまくってた。

「うん、なんかこんな弱いとは思わなかった」

夫婦揃って言うんじゃねー! 殴るぞマジで。

「ラッシュ、神様なのにすごく弱い」

「すごく弱い」

「おとうたん……よわい」


さらに双子とチビにまで追い討ちされて、なんか情けなくなってきた……


そんな敗北を味わったせいかどうかは知らねーが、夕メシが妙に旨くなかった。


イーグの持ってきたパンはまだいいにしろ、ロールキャベツの味が全然しねーし……

「なんか……その。お世辞にも旨くないな」俺の心を見事にパチャが代弁してくれた。

「うん。トガリってすごい煮込み料理得意なのに。なんか全然味がしないんだよね」フィンも同様の意見か。

いや、いつも通りに俺は食うぞ。不味くったって飲み込めば明日への力のもとになる。つーか腹を満腹にさせねーと参るし。


「ごめんね、ここ最近野菜とか肉の仕入れも全然なんだ。物流がかなり細くなってるみたいで、たまに来てもかなり質の悪いものばかりだし」

台所から、いつにもなくしょげた顔でトガリはそう話してくれた。つーかあのトガリですらどうにもならないほどなのか……

「それに、ここ最近野菜も獲れなくなってきてるって話だし。こればかりはどうにもならないよ。それに僕がバイトに行ってる店も今は臨時休業。このままだと……」


飢え死にしたくない。不味いメシも食いたくない。

しかしその二つですら解消できないってのは、本気で調べてみる必要があるかも知れねーな。


そうだ、なによりもみんなで楽しくメシを食いたいんだ。


そんなことを話していると、玄関のドアがゆっくり……まるで幽霊が来たんじゃないかと思うくらい弱々しく開いた。

「た、ただいま戻りました……」いつもそうなんだが、今夜はいつも以上に元気がない。

「どうしたんだ、なんかあったのか?」

「実は……」その声は今にも外の風にかき消されそうだった。


「プロポーズ……され……ちゃったんです」

「え!?」っていうかプロポーズの意味自体知らねーけど。

「タージア、誰にプロポーズされたの?」今にも泣きそうな顔の彼女に、トガリが優しく話しかけた。


「そ、それが……お、王子に……なんです」


食堂の空気が、凍った。

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