女三人、大ピンチ

「あたし、いい策があるんだけども……いいかな?」

そういうとパチャは、ロゥリィを縛っていた縄をおもむろに解きはじめた。

「おい、パチャお前!?」

「大丈夫。ここ海の上だし、暴れたら放り出せばいいことだし」

間髪入れず三人の手から逃げ出そうとしたロゥリィの首筋に、パチャはサーベルを突き立てた。

「つーことで理事長さん。向こうからお仲間が来たら交渉してくんないかな? へへ」

まるでその尋問を愉しむかのように、ちろっと口の端から細い舌が見えた。

「ふへ……な、なにを交渉しろと?」

「決まってンじゃん。あたしらに一切手を出すなってコト」

「み、見逃せってことか?」

そゆこと。とパチャはロゥリィの頬にペチペチとサーベルの刀身をあてた。

「あたしら三人。理事長さんは丸腰。この意味わかるっしょ?」

ロゥリィはその言葉にただ黙ってうなづくよりほかなかった。


風に乗っていたのか、バクアの漁船団はまたたく間にジールたちの船へと近づいてきた。

「行ったのは五隻。ざっと腕利きの男どもが数十人はいるな」

「心配ないってマティエさん。あたし、こう見えても必殺技あるんだ」

パチャは背負っていた革のザックから、大きな水筒を取り出した。

「竜の息吹か?」

「え、ええええええ!? マティエさん知ってたんですか!」

「知ってるも何も、エッザールが前に使っていたのを見たしな。しかも結構うまい酒だ」

そう、パチャもエッザールと同じ種族。つまり例の技を持っているということはおそらく承知していた。

「マティエさん、お酒イケる口なんです?」

「いや……色々あってな。いまは断酒してるっておい、船が来たぞ!」

ジールも愛用のボウガンを手に臨戦態勢で構えていた。願わくばパチャの策が実ってほしい。自分とマティエのケガは大したことはないといえ、血を流すのはいまはゴメンだ、と心の隅では願っていた。


だが……向かってくるにつれ、乗船している男たちに違和感があるのが見て取れた。

総じてケガ人しかいない。ある人は鼻っ柱を折られたのか、顔面血だらけのまま。そして中には手足を折られた人も転がっており、船上はケガをした者たちの収容施設さながらの状態だった。


「な……これは一体どうなってるんだ!?」惨状を目の当たりにしたロゥリィが驚きを隠せない。

やはり……ほぼ全てが負傷しているのか、彼らに戦う意志そのものが完全に失われていたのだ。

「どうもこうもないっスよ! あの犬野郎俺たちに一人で抵抗してきやがって。見てくださいこの有様!」

「理事長、約束が違うぞ!全員無抵抗で始末できるって言ったじゃないか!」


とりあえず手当が先かな、と真っ先にジールは甲板に飛び乗った。

正しい治療もできず呻いている人を見捨ててはおけない。それは人間だろうと同胞であろうと同じだから。

「なんか……拍子抜けしちゃったね」と、ジールは苦笑しながら二人に話した。

「いいんじゃないか、肩透かしだったけど誰も死なずに済んだのはいいことだしな」


「っていうか、ここまで人間連中をコテンパンにしちゃった犬野郎って、ジールさんたちの仲間?」

コクリとうなづくと、ジールはその犬野郎ーラッシューについて語り始めた。


「あたしたちより全然強いから。まあいっぺん見てみなって」

「お前もアイツを見たら、私たち以上に惚れるかもしれないぞ」


「えええマジっすか! 早く会ってみたいな!」


治療を終えた船はバクアへと戻らせ、パチャたち一行は黒煙の立ち上る島へとまた向かっていった。

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