鋼鉄の戦車

開始の合図もなく俺たちの闘いははじまった。

大上段から振り下ろされたナウヴェルの鉄球が、ゴン! と凄まじい轟音と共に俺のすぐ脇の地面にめり込み……じゃない、突き刺さった。

「まずはこいつの自己紹介からだ」

冗談じゃねえ。この部屋端から端までそこそこの距離があるっていうのに、そこまで飛ぶんかい!


生まれて初めてみる、戦車の異名をとるサイ族の戦士ナウヴェルの一撃。想像以上のものだ。

マトモに食らったら骨が砕け散るとかなんてもんじゃない。全身が四散してしまうぞこれ!

しかも相手は本気だ。すなわち俺を殺す気満々。

……そうだ、こうでなくっちゃ。

思わず舌なめずりしてしまった。このべらぼうな強さを誇る歴戦の勇姿に、俺も応えなきゃな。

まずは距離を詰めようと足の爪を床に引っ掛ける。

……? そういえば、これ床でもないことに気がついた。

ガチガチに硬くなるまで踏み固められた砂だ。そう、砂浜のアレだ。

ということは、つまり……!


腕にくくりつけられた鎖を一気に引き寄せ、老兵のさらなる一撃が奴の頭上でぐるぐると振り回された。

ぼーっとしている暇はねえ。殺意は一瞬で俺のもとへとやってくる。次は避けないと……と思った瞬間。

ドゴッ! と予備動作なくもう一撃が飛んできた。ついさっきまで俺がいた場所は大きく地面がめり込んでいる。

いいね。ならば俺からもご挨拶を!

可能な限り姿勢を低くして一気にナウヴェルに肉薄し、その丸太のように太い脛に一撃を加える。

懐に入ってしまえばこっちのもんだ。相手の武器は飛び道具みたいなものだし。


……と、考えるのはバカのやることなんだよな。今までの俺ならきっとそれをやった挙げ句に相手に蹴り殺されることだったろう。

脛に一撃を加える直前で気付いた。そうだ、こいつの身体って持って生まれた硬い皮膚。つまりは全身鎧に包まれているんだった。

俺だって身体はそれなりにデカいが、このおっさんの方はもっと巨大だ。それに硬いし、思っていた以上に素早い。


「うん。考えるだけの頭は持っているようだな」

ぽつりとナウヴェルは言った。それなりに読まれているようだな。あいつもダテに数百年生きているわけじゃないってことだ。

ならば……と、ナウヴェルの横に回り込んだ俺は、そのまま背後から膝後ろ。つまり関節部分に渾身の斧の一撃を叩き込んだ。

大丈夫だ、刃は落としてある。これくらいなら……と思ったが、やっぱり皮膚硬ええええええ!!!

「それも想定済みだ」

そう言うとナウヴェルは、一瞬俺が呆然としたスキを狙って尻尾をひょいと掴んだ。


ちょ、やめろ、尻尾持つのやめええええ!

奴は俺の身体を、まるで地面に生えている雑草でも引っこ抜くかのように、そのままポイッと遠くへ投げつけた。


「分かったか、ディナレの遺児」

「あァ? 全ッ然わかんねー!」

砂でじゃりじゃりになった唾をペッと吐き出して、さて振り出し。

さてさて、どう攻めていこうか……!

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