ときめきのパチャ 後編
「バカ! バカ! バカこのムッツリ暴力女!」
マティエに殴られた左目の周りには、見事なまでに丸いあざができていた。
「ほんっと最低だよな。人相悪いし口も悪いしおまけに酒乱だし口より先に手は出るしでもう!」
「フィン、知ってるのかこの人?」
フィンはマティエのことをパチャに話した……が、見事なまでにマイナスな要素しか出てこないまま。
「で、この女は一体何なんだ?」こみ上げる怒りを抑え、今度は逆にマティエが問う。
「ああ、フィンはあたしの旦那だよ」
「……本当か?」
うん。まあ一応。と。相手側もそれなりの返事しかできないまま。だが詳しい経緯をここで話してしまえばあっという間に日が暮れてしまうだろう。
もちろん、その逆もだ。
「ところでさ、さっきからずっとチビの様子がおかしいんだけど」
鼻息荒く、マティエはチビの視線の方向……はるか水平線の先を睨みつけ、話した。
「ラッシュたちが島に連れて行かれたんだ。なんでも離れ小島の住民が神様を欲しているとか」
案の定、口下手なマティエがそんな事情を話しても通じるわけでもなく。
「でさ、なんでラッシュが神様にされちゃったのさ?」
「私にそんなこと言われても知らん」
「いや、知らんって……同行してたんでしょ?」
「途中から倒れていたんだ……気がついたらもうあいつはここを出ていた」
「まったく……だからマティエは脳筋女って言われるんだ」
瞬間、彼女の怒りの導火線に火がついた。
「お前……言わせておけば!」
年端も行かない子供に拳を向けようとした直後、ズン! と大きな地響きが襲いかかった。
立っていられなくなるほどの巨大な、まるでパデイラの怪物が目の前に降り立ったかのような衝撃。
「おとうたんが……」
チビがつぶやくその先からは、もくもくと噴煙が立ち上っていた。
「なんだあれ?」
「まさか……あれ、火山じゃないのか?」
「かざん……?」
フィンもマティエも知らなかった。山が火を吹くことも、溶けた岩を吹き流すことも。
ゆさゆさと地面が揺れ、港の漁師たちも逃げ惑っていた。
「あの距離じゃここまで被害は来ないとは思うけど……島にいるみんなが心配だな」
「ならばどうすればいいんだ!」
「船を借りて助けに行くしか……っていうかあたしそんな技術もってねーし!」
「大丈夫、私がなんとかするから」
音もなく駆けつけた存在。紛れもなくそれはジールだった。
その姿に、またもやパチャの胸がドクンと大きく高鳴った。
少しパープルがかった毛並みに大きくウェーブのついた長い髪。マティエ同様すらりと伸びたその立ち姿。
「私たちもあの島に行くよ、船は理事長がかき集めてくれるって」
「ジール……あのキツネ目の奴は自供したのか?」
「いや全然、けどそんなこと話してる場合じゃないからね。帰ってきたらまたシメてやる」
そう言い切った彼女の姿にまた、パチャの胸が大きくときめいた。
「ジール……ジールっていうんだあの人」
「はじめまして……って、エッザールの知り合い?」
「いや、フィンの旦那だそうだ」
「え……」
だがそんなことは全然関係なかった。
そう、パチャカルーヤは一目惚れしていた。
マティエとジール、二人の女性に。
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