地図

結局、情報は得ることができたが、現物を得ることはできなかったワケで。とりあえずは腹も減ったことだし、みんなトガリの……メシはちょっと遠かったから、イーグのパン屋へと押しかけることとなった。


「だからって俺のとこでメシ食うことないだろーが!」

「いいじゃねえか。食べ放題の約束忘れたワケじゃないだろ?」

ということで不満顔のイーグをよそに、俺たちは今日のお店の売れ残りのパンを、半ば無理矢理ご馳走になることとなった。野菜しか食わないタージアもこれなら大丈夫だろう。と思ったらひたすらにばくばく食べてるし。


「で、例の件はどうなったんだ?」

今度はイーグの方が俺を呼びつけた。仕方ないな。みんな憔悴しきってるんだし。

とりあえずあれからの流れ全てを話した。例の粉にはクラグレって花の根が必要なこととかも。


「クラグレ……か。ちょっと待ってな」

イーグは何か思い出したのか、しばらく席を離れた後、革の巻物を手にまた戻ってきた。


「ほらよ、これで食べ放題の件はチャラな」

「なんだこれ?」

見てみな、とイーグは巻物を床に広げる……と。

それは、見たこともない様々な国が記された地図だった。

以前ルースの勉強会の時に同じようなものを見たことがあったっけ。しかしあの時見たやつ以上にこれは細かく、さらにおびただしい数の矢印が書かれている。


「パンって何からできてるか知ってるか?」

「小麦だっけか。それを粉にして練るんだろ」

「ああ。この地図はその小麦の採れる場所とか交易ルートを地図にしたものなんだ」

なるほど、だからたくさんの矢印が記されているのか。しかしなぜ俺にこんな地図を……?

「クラグレで思い出したんだ。北の方にしか咲かないってあの女の子が言ってたろ? ここに来る以前に、近所の祈祷師の婆さんに頼まれて採ってきたことがあるんだ」

イーグは指で、リオネングからさらに上の方にある場所を指した。


「ここから馬車でちょっとかかるけどな。スーレイって国がある。そこで俺はクラグレを採取した」

「え、つまり……そこへ行けば手に入るってことか⁉︎」

ああ。とイーグは勝ち誇った顔でうなづいた。

スーレイ……か。俺の方も記憶をたどってはみたものの、この地へは行ったことがなかったな。

「ここはリオネングとも同盟関係結んでたしな。それに俺たち獣人でも嫌がることなく迎えてくれるし」

つまり……

……………………

………………

…………

「そこに、クラグレがたくさん咲いてるってことなのですね……」流石のタージアもこの薬草の場所までは知らなかったようだ。

満腹になった俺たちは、結局のところまた家に着いてしまったわけで。まあ仕方ない。あんなホコリ臭いラボにずっといるわけにも行かないしな。


「なるほど、私はちょっと寒い場所は苦手なのですが……あれ以上彼女の変わり果てた姿を見るには忍びないですしね」

エッザールも同意してくれた。苦手とはいえ、やはり旅するとなると自身の心が沸き立つみたいだ。


「うーん……どっしよっかにゃ〜。あたいもエッザールと同じで寒いトコ苦手だしぃ」

ジールは……というと、疲れは酒で癒すとのことで、早々にラザトと出来上がっていた。

あいつ酒でいい気分になると、やたらにゃーにゃー言うんだよな。変な口調だ。


「スーレイはここから馬車だと片道一週間はかかる。それ相応の準備をしておかなければ危険だぞ」

と、ラザトは忠告してくれた。まだまだ国の外には野党まがいな賊が出没すると言う話だしな……それにここのところ身体が鈍ってきた感じするし。斧も研いでおかないと。


「えっと……」厨房の奥から、コーヒー片手にトガリが顔を出してきた。

「さっきからクラグレの話してたけど、一体どうしたの?」

当たり前だがトガリにはマティエの錯乱の事は話してないんだよな……それにスーレイまでの旅に同行させるわけにも行かないし。

「あ、ああ……ちょっと薬草が入り用になっちまって……な」

「それだったら……僕、持ってるよ」


「「「はぃい⁉︎」」

や、やべえ。ついみんな揃って変な声が出ちまった!




トガリよ……お前いったい何者なんだ!?

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