振り返って……

改めて思い返してみると、俺という存在は本当にバカそのものだ。けどいまさらどうやったって、このバカな頭は治しようがない。


ネネルに教えてもらった花を思い切り踏んづけてしまった時、俺は……まるで死ぬ直前に人が見るという人生の縮図みたいなものが脳裏をよぎった。

いや違うな。その前からもう俺はバカだなという事に気がついていたんだっけか。

マティエの特効薬となる花を教えてもらって……うん。それはいいとして、どうやってその事をみんなに話すんだ……って。

エセリア姫が俺に伝えてくれただなんて、死んでも言えるわけないし。

悩んだ……さっき以上に。もう頭から煙どころか火を吹きそうなほどに。


重い足取りで城の外れにある薬草園へと向かうと、やはり……遠くから見てもわかる。まるで畑仕事をしているかのように、タージアたちがせっせと茂みの中で格闘していた。

「ラッシュさぁ〜ん! いったいどこに行ってたんですかぁ〜!」

真っ先にタージアが駆け寄ってきた。今にも泣きそうな声で。

チビのことが心配だったからと嘘の言い訳でひたすら謝り、そこからことの経過を聞いたんだが……

「タージアが調べてくれたのよ、クラグレって名前の花の根が効くみたい」

「え……⁉︎」その言葉に思わず二度も聞いてしまった。

「でも、その花を描き写した彼女のノートが行方不明になってしまいまして、ラボにずっと置いていたそうなのですが」と、エッザールが疲れ切った顔でつぶやいた。

そういえば、載っていた本って……描き写し……⁉︎


あいつか!

ネネルのやつ、事前にタージアのノートを盗んでいたのか!

そこまで徹底して調べていたとはな……まったく、抜け目の無いお姫様だぜ。

「黄色い花弁だった以外はすっかり忘れてしまいまして……この近辺をずっと探してはいるのですが、全然見つからないんです。このままではマティエさんの命が!」

うーん、治らなくてもとりたててあの女は死ぬことはないとは思うんだけどな。しかしますます困った。これでクラグレの姿形を覚えているのはこの中で俺一人だけってことになる。

さてと……これをどのようにしてみんなに教えれば……って、そうだ!

「タージア、それって確か日陰に咲く小さな花じゃなかったか? それに花びらは六つだったような……」

「え、えええええ⁉︎ そういえばそうだったような記憶が! ラッシュさん、どどどどうしてそれを知っているのです⁉︎」

またしても俺の身体に飛びついてきた。いいけどもうちょい落ち着け。

「あ、あー……かなり昔な、親方に教えてもらったんだ。月夜に咲くきれいな花だぞって」

「すすすごいです親方さま! けど……クラグレって本来ならずっと北でしか育たない薬草なのです。それを知っている親方さんって……とても博学なのですね」


とりあえず笑ってごまかした。許せ親方。

さて、うまいこと教えられたし、あとは探すだけかな。

「うん、ようやく私も思い出すことができました。確か……西の門のこの近く。ずっと日陰になる場所があったので、そこに植えたんです。とっても小さな花なので、目をこらさないと……」

なるほどな、って感心した矢先だった。俺の足元で、ぺきっと小さな音が……

「ラッシュさん……」

「は、はい?」

なんか妙な感触が、俺の足の裏からじわりと伝わってきた。


「私、確かその近くにクラグレを植えていたはずなんです……」

「は、はい……」

同時に、背筋から冷たい汗が伝わってきて……


「足、どけてもらえますか?」


「あ……」


終わった。

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