さて、どうする?

イーグを証人……いや犯人として出せば全ておさまる。しかしダチは売りたくねえ。

ネネルを犯人にするか? いやそれはまだ本人に聞いてみなけりゃ分からないことだ。

だがこの流れで行けば姫が黒幕なのは確実。だけどそれをどうやって俺の方から説明すればいいのか……


つまるところ「マティエがムカつく奴だから」に行きつくんだが、そんな解答でルースを悲しませたくない。

いっそのこと、俺が罪を被ろうかな……なんて思ったりもした。マティエ憎しで俺がやったんだと言えば……


いやダメだ、考えろ俺!

唯一の証拠であるこの空っぽの紙包みを空に掲げながら、俺の頭はもう煙が立ち上りそうだった。

しかし考えれば考えるほど袋小路に陥ってしまって……あああ、仕方がない。とりあえず教会へ帰るとするか。

……………………

重い足取りで教会へと戻った俺を待ち受けていたもの。それは安堵の表情の三人だった。


ルースにどうしたんだと訊ねると「おそらくこれは経年劣化による成分の変質だったんだ」と告げられ、またしても俺の頭はこんがらがってしまった。やめろ、もっと俺にも分かりやすく説明してくれ。


「つまり、別の甕に移したまま何年も放ったらかしにしておいたことで、酒に含まれていた成分が変わってしまったんだ」ま、まあそれならば分かる……

つまりは、その変化がマティエには強すぎたってことなワケだな。と聞くと「そういうこと。ラッシュが匂いの変化を感じたのは、そのためかもね」だとさ。


だけど……俺がこの前あのクソマズイやつを飲んだ時は、そんなこと一切起きなかったけどな。

「ラッシュの精神が肉体以上に頑丈だった……のかな?」久しぶりに見せたルースの笑み。


そうだ、コイツがそう結論付けたのならそれでいい。アスティもロレンタもなるほどねと納得してるみたいだし……俺が無駄な努力し過ぎてしまっただけだ。うん。助かった。

……………………

「ところでラッシュ、ずっとどこ行ってたんだい?」

ラボへの帰路、ルースが聞いてきた。

「ああ……家に戻って、その……トガリにな」

いい嘘が思いつかなかったから、とりあえずトガリを犠牲に。すまない……

「トガリはアラハスの香料の神ジックゥサがいたはず。ディナレ教会には行く必要性はないと思うけど……」

だよな、俺の全くの思い違いだよな。って笑ってごまかした。すまんトガリ、しばらく殴らないから。


「あとは……」

「ああ、マティエを覚まさせるには一体どうしたらいいか。タージアが見つけてくれればいいけど」

そう、つまるところそれに尽きるワケで。

成分が変わって……とかいう理由であの女が錯乱した(とみんな思ってる)んだが、問題はあいつをどうやれば治すことができるか。

ここはやはり、うやむやにするわけにもいかねーから……


「ルース……ひとつお願いできるか?」

「え、いったいどうしたの?」


「出来たら早くエセリア姫に会いたいんだが……どうにかできるか?」


「ど、どういうことラッシュ⁉︎ まさか……彼女を好きになっ……ぐはぶっ!」

これ以上ややこしくされると困るから、とりあえず一発殴って黙らせた。

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