マルデ攻城戦 1

ーコン、コン、カーン! と、

使い古されて手垢まみれになった木剣が2本、小気味良く打ち鳴らされている。

いや、切り結んでるのかこれ。

一方は攻め、そしてもう一方は受け手。これを何回か繰り返して、何本取れたかを競う。


これは、ラザトが俺に教えてくれた練習法だったな……


あ、やっぱそうだ。うちの裏庭で、俺とラザトと。懐かしいな……もう十年くらい前の俺じゃねえか。

「ふう、もうヤメだヤメ! さすがに昼からブッ通しは疲れた!」

「ラザトはヘタれるの早すぎだよ」まだあまり身体ができてなかった頃の俺だな。鼻に傷が無かったし。


「バーカ。お前の体力が底なしなんだよ。それに剣だけ使えって何度も言ってるのに、蹴ったり投げたりで……ガンデの兄ィにそんなえげつない戦い方教わったのか?」

「ううん、親方は基本のことしか教えてくれない。あとは本番で学べって」

「でもってそんな品性のない戦い方を学んだのか……って痛え!!」


ほら来た。親方のゲンコツだ。

「ンじゃあ逆に聞くがラザト。お前は戦いの最中にマナーとか礼儀を相手に求めるのか? あァ?」


親方まだ若いなあ。足腰もしっかりしてるし。拳もデカくて岩みたいだし。

「いや、だからって普通、鍔迫り合いの時にみぞおちにひざ蹴り入れたりしねーだろうが!」

「ラザト……だからお前は戦場じゃ半人前だって未だに言われるんだ」

「ざけンなよ兄ィ! じゃあこのバカ犬はいま何人分の働きができるんだ?」

「そうだな……今の時点なら、3人分だな」

「ま、マジかよ……冗談とかじゃなくてか?」

「ああ、あと10年くらい積めば、こいつは1人で10人分の稼ぎはイケるぞ! ガハハハ!」


全て親方の言う通りだ。武器だけに頼るな。殴る蹴る引っ掻く、そして投げて組み伏せる。やべえ時は全部仕掛けて、それでもダメならお前の牙で喉笛を喰いちぎれって言ってたんだよな。


でもこの日……会合から帰ってきた親方はいつもに比べて元気がいまひとつだったんだ。

「親方おかえり! なんか仕事入った?」

親方は俺の頭をわしわし撫でて言ったっけ……

「ああ来たぜ。久々にでけえゴト(仕事)がな」

そしてそのまま、夕飯になったんだっけ。


「おいコラバカ犬、おめー汗流さねえでそのままメシ食うのかよ!」

ラザトもあの頃は結構神経質な性格だったよな。今とは大違いだ。

「うっせーな。濡れたら風邪引くじゃねえか」

「バーカ。すぐ身体を拭けば大丈夫に決まってるだろーが。だからオメーはめちゃくちゃ臭えんだ。その臭いでメシが不味くなるからどっか行け」

「俺は全然臭いなんて思ってねえし。肉団子いらねーンならもらうぞ!」

「バカ野郎! まだ食うんだそれ!」


「よーっし、みんな揃ったか。今から依頼の話を始めるぞ」


親方がパーンと手を鳴らして、そのままいちばんデカいテーブルに地図を拡げた。俺もラザトのメシを盗み食いしながら聞いたっけ。


そうだ、まだ親方のギルドには10人近い仲間がいたんだよな。みんな腕に覚えがあるやつらだったのに、この仕事を境に……


「いいか、まず最初に言っておくが……今回のゴトは、受けたら最後、墓に入る準備だけはしとけ」

その一言で、俺以外みんな黙っちまった。

「ンで? そんでどんな中身なのか話してよ親方」

俺の問いかけに、親方はゆっくり口を開いた。

あの忌まわしい場所の名を。


「ル=マルデの城だ。あいつを取り返す」


今度は俺以外が一斉にどよめきだした。

なんなんだ、マルデって……。

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