またもや奇襲

加護、ねえ。

別に、鼻を触られる程度はなんてことない……‬が、なんだろう、このモヤッとした気分は。

唐突に俺が神様みたいな扱いを受けちまって、とにかく言葉に言い表せない複雑な気持ちなんだ。

これでもし、イーグもさっきの奴もここで死んでしまったら、今度は俺がどう周りから見られてしまうんだか……‬


そう考えあぐねているうちに、俺たち一行は湖へと到着した。でもってまずはそこで小休止。

目的地に着いたのは、陽もとっぷりと暮れた頃だった。

で、結局俺の恩恵にあやかったのはイーグを含めて二人。

「申すのが遅れて失礼。私の名前はエッザール。南方のシャウズという国から参った」

意外にもこのエッザールという男、礼儀正しかった。

ちなみにシャウズってとこの住民は、みんなこいつと同様の種族らしい。リザードとかいうそうだ。

平和になったらぜひ来てもらいたいとは言われたが……‬とりあえずそういう会話は生きて帰れたらにしようぜ。


さてさて……いよいよ森が目の前というところにまで来たんだが、この先の道が異様に荒れていることに気づいた。

おそらく人獣はこの辺りまでマシューネ兵を追ってきたんだといった言葉もちらほら。

確かにそれもあり得るな、道端に何も残っていないのは、打ち捨てられたものはみんなバケモノ連中が自身のものにしてしまったからだろうし、まだここ一帯には血生臭ささえ感じられるし。


「ん……‬っ?」イーグが突然馬の歩みを止めた。なんだろう、もうちょっとで着くというのに。

「待った! みんなこれ以上先を行くな! なんか嫌な予感がするんだ!」

そのイーグの警告に、エッザールやマティエ含めて二、三人が歩みを止めたが、他の連中……‬主に人間たちは無視して先に行ってしまった。

「イーグ、なんか感じたのか?」

「ラッシュ……‬お前も感じたろ? なんか腐ったような臭い。

イーグが言うには、死んだ人間の臭いとはまた違うものなんだとか。でもそれがなんのニオイなのかは……

「わかんねえ……‬わかんねえけど俺が今まで戦の場で嗅いだのとは微妙に違うんだ。ウソじゃねえ。俺はずっと斥候やってたから分かる! 悪いことは言わねえ、それ以上先へ行くな!」

人間たちを追おうとするイーグの身体を、エッザールは引き留めた。

「やめておくんだイーグ。元よりあの人間連中は我々のことをあまりいい目で見てなかったしな」

「だからといって止めねえワケには行かねえだろ!」

軽く舌打ちして、マティエが人間たちの後を追いかけていった。

「ああ、もう知らねえからな!」と、続けてイーグ。もちろん俺も奴と一緒だ。逃れられねえ。

結局は全員人間の後を追う始末……‬だから人間連中は好きじゃないんだってイーグはブツブツと独り言をつぶやいていたが……‬そうだよな、感覚が鋭い俺たちとは違う。それに人間どもは俺らのことを格下に見ているのが多いこと多いこと。軍や騎士の連中となるとなおさらだ。

だんだんと例の臭いが強くなってくる……‬それに足元も……‬って、もしかして!

「離れろ! 奴らは潜っているぞ!」マティエの声が暗闇を割いた。

そうだ、ここは以前荒らしたんじゃない。これが連中の作戦だったんだ!

道をわざと田畑のようにひどく荒らしておくことで、馬や俺たちのスピードをあらかじめ殺しておく。

そして別働隊は……‬

そうだ、待ち伏せしている!

俺は大斧を手にすると、馬から飛び降りそのまま先端の切っ先を思い切り地面へ突き刺した。


土じゃない、ぐにゃりとした、硬くて柔らかなな手応えと共に、あの……‬俺たちがずっと手をこまねいていたバケモノが這い出てきて、そのまま胸から血を吹き出して倒れた。


……‬ルースが以前言ってたっけか。こいつら死臭に似たニオイがするって。

つまりは、こういうことだったのか。

釣られるように、前方から2匹、3匹と連中が地面から這い出て来た、まるで芋づる式にジャガイモが採れるように。

そっか……マティエ達を先に行かせて、戦力を分散させる気だな。

「イーグ、エッザール! 一気にこいつら仕留め……っていだあ!!」

突然、俺の尻尾の先に激痛が走った。思わず悲鳴が出ちまったし。

「わ、悪ぃラッシュ。お守りとして尻尾の毛もらうよ!」


イーグ……あとでブッ殺すからな……!

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