旅陣

ここに残されているのはみんな俺らの仲間たちってことになる。さて、と。人間組を追ってマティエは先に行っちまったし。ここに残されているのはみんな俺らの仲間たちってことになる。

エッザールも馬から降りて武器を構えた。あいつの武器は……と、刃の湾曲したサーベルか。それと小ぶりな盾。

イーグの方はというと、大きめの肉厚のダガーを両手に持っている。あいつインファイトが得意なのかな。

「どっちかっていうとダガーの方が好きなんだ。本当なら相手の背後から首掻っ切るのが好きなんだけどな」

イーグの腕……うん、体格も太めだが、腕もすごい太さだ。

「俺の加護なんてあてにするな、直接守ってやれないこともないが」

「その言葉だけで十分です!」襲い掛かってきた人獣を、まずはエッザールがサーベルで一閃。

落ち着いてるな。これは場数を踏んでると思っていいか。

一方イーグの方だが……なんで俺の陰に隠れてるんだか。

「言っただろ、俺は斥候だって、こういうたくさんを相手にするのは苦手なんだよ!」

物々しい武器を持っている割には……うん、戻れたらもう一発殴ってやる。


俺はと言えばいつものペースだ。群がった人獣どもはことごとく大斧の前に肉塊と化してしまうだけ。

それにこの前は俺一人で何十人も相手にしたからか、結構手こずった思い出はあるにしろ、今回は仲間もいるしな。でも先に行ってしまったマティエの方が心配だ。早くこいつら片付けないと。


しかし……今ふと思ったんだが、この感じ、生まれて初めてかもしれない。

いままではすべて俺一人だけで戦っていた。過去に誰かと組んで出たことなんて……俺の記憶には一つもない。つまりは一人っきりで切り抜けてきた。

だけど今はどうだ? 俺の後ろにはエッザール、尻尾みたいにぴったり離れないが、それなりに何人かきっちり仕留めているイーグ……と。


そう、誰かに背中を預ける戦い方って、これが初めてなんだ。

「こういうのも悪くねえな」

「あ? なんか言ったか?」

「悪い、独り言だ」


十人ばかし斬り伏せただろうか、敵の猛攻もかなり落ち着いてきた。

ちょっと離れたところでもう一方の同胞の集団が囲まれていたはずなんだが……声が聞こえない、全員やられちまったかな。

「イーグ、お前はマティエの方に行け、俺らもすぐ追ってくから」

あいよ! と言葉を残してあいつは軽いステップで闇の中へと消えていった。大丈夫。俺たち獣人は基本的に夜目も利くし、それ以外の五感だって人間とは段違いに働く。もちろんイーグのやつだって同様だろう。


最後の一匹の眉間を叩き割って、ようやく周りに静けさが戻った。

「ラッシュ、こんな時に私が言うのもあれなんですが……」

なんだよかしこまって。と俺が返すとエッザールはなにやら照れ臭そうにまた話を続けた。

「生きて帰れたら、イーグと一緒に旅陣でも組みませんか?」

「リョジン……って、何だ?」それは、初めて聞く言葉だった。

「外の世界へ出るんです、我々獣人はそれを『旅陣』と呼んでます。まあ人間たちの間じゃもっぱら冒険者と言ってますね」


その言葉にふと、以前ラザトが「この国を出る覚悟はあるか」って言ってたのを思い出した。


「……いちおう、考えとくわ」

そっけない返事とアイツに思われたかもしれないが、今の俺の頭の中じゃこれが精一杯だ。


俺とエッザールもまた、マティエを探しに森の方へと足を進めた。

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