帰宅

……結局、帰りの馬車の中では、俺たちはほとんど会話しなかった。 

 気味の悪い盗賊共の罠によって仲間を一人失ったとか、仕事の収穫がゼロだったとか、様々なトラブルもあったにはあった。が、それ以上に問題だったのがこのチビだ。

 

 さらに……


「背丈からして4.5歳くらいかな…」なんて、俺が抱いているチビを見て、ジールがボソッとつぶやいていた。子供の扱いには詳しそうだから、こいつにチビを任せたかったんだが…… 

 やっぱり最初に目があったのが俺だからだろうか、ルースに預けてもゲイルに渡してもすぐにわんわん泣いちまう。

「ラッシュさんを親だと思っているんでしょうかね」なんて涼しい顔してルースは言うし。結局俺の手に渡る始末。

 案の定わめき疲れたのか、今度はずっと眠りっぱなしだ。 

 俺の毛の色に似た黒い髪。撫でると、土ぼこりにさらされていたせいかかなりゴワついている。

 大きめのボロボロの布切れを一枚身につけているだけで、むき出しの手足は泥とすり傷だらけだ。身体に毛が全然生えていない人間だからよく分かる。

「明かりが見えてきた、もうすぐだぞ」

 馬を手繰っているゲイルの声が、馬車の外から聞こえてきた。

 ほとんど会話しなかったからか、やたらと時間が長く感じられたな……なんて思い、俺は大きく背伸びした。チビをずっと抱いてたからか、身体中が縮こまって痛い。 

 外を眺めてみるとすでに陽は落ちかけ、薄暗くなり始めている。この分だと掃除の報告は明日だな、それと武器屋のオヤジに会わなきゃならないし……

 いや、それよりこのチビをどうするかだ。

 じゃない、その前に……腹が減った。


 帰ったらまず、トガリにメシ作ってもらおうか。 

 この前作ってくれた豆の辛い煮込みは最高に美味かったな。あとジャガイモだ。ふかしたての芋にバターをたっぷり、それだけで美味しい。そうだな、今の俺の腹の減り具合なら10個……いや30個は楽にいける。それから、焼きたてのパンを……

「ラッシュ、ちょっといいかな」突然、俺の妄想に割り込むジールの声が。

「家に着いたら、話したいことあるんだけど、いい?」 

 その時、俺はようやく思い出した、ジールが以前話してたあのことを。そうだ、俺も聞かなきゃいけない。あの時、問いただせなかった言葉の意味を……

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