傷跡
そうそう、なんで「鼻白」って変な名前が付けられたか……
これは俺が今までの間に唯一付けられた傷跡によるものらしい。
俺の鼻面には、X印の大きな傷跡がある。
何年か前での戦いで、知らないうちに俺のこの場所が傷つけられていたことがあって、それから一週間あまり、ひどく痛くってロクにメシも食えなかった。誰に付けられたんだかも記憶になかったし。
ほどなくして傷は治ったが、この鼻面に刻まれた傷跡は消えることがない。でも、いい目印じゃねえかって親方は笑って言ってたっけな、戦士にとって、傷跡は勲章だって。
しかし………この傷ができて以来、俺の嗅覚がちょっとだけ鈍った気がする。人間より遥かに俺らの鼻は優れているとは聞いたが、それでも今までより、メシの匂いとかイマイチ分かりづらくなってきた気がする。
そしてまた何年かが過ぎていって、このギルドにも、様々な獣人が来るようになってきた。親方いわく「お前の戦いっぷりのおかげだ」って言ってたっけ。
俺と同じく耳が立っている奴、垂れている奴。様々な格好の獣人がとっかえひっかえやってきた。
短い鼻面に大きな鼻、そして丸っこい耳な奴…獅子族とか言ってたか。そいつは別のギルドの方が給料や条件がいいと知るや、とっとと夜逃げでもするかのように消えていったな。
同じなんていっても、所詮は生きるか死ぬかの2つだ、そんな奴となんて仲良くなる気もなかった。
でも、そんな俺を慕っているのかどうかは知らないが、仲間っぽい存在が二人できた。
一人はトガリ。モグラ族とかいう小さくこげ茶色の毛並みをしたやつ。
手には鋭く長い爪が伸びてて、こりゃちょっとは役に立つかなと思って親方が拾ってきたらしい。ところがこいつは血をみるなり、俺の前でいきなり失神しちまった。
さらにこいつと話してみて初めてわかったんだが、ひどく訛りが強い。本人が言うには仲間はみんなこんな感じだって言うが……ちゃんとしゃべれって何回殴ったか、もう数え切れないくらいだ。
使えないやつだって親方も手を焼いてたが、だけどこいつは唯一、すごい特技があった。
メシを作らせると絶品だってことだ。ちょうどここのメシ当番が辞めてしまい、今後のメシはどうしようかと親方が思いあぐねていた時に、こいつはすぐに手を上げて「ぼぼぼ僕、りり料理、ででできます!」って例の口調で言ってきた。
試しに厨房に入れて適当な食材を与えたら、両手に生えた長い爪を見事に駆使して作っちまった。
鶏のトマトシチュー……一口食った直後、親方は即言った「お前、今日からここのコックになれ」ってな。
以来トガリは、一人でこのギルドの食事を切り盛りしている。相変わらず俺をイライラさせるしゃべりっぷりは治らないが、だがどんな奴にもすごい特技のひとつくらいはあるもんなんだな、なんて感心した。俺も、親方も。
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