第11話 胸がいっぱいで食べられない

 七虹さんからもらった串焼きはなんだか勿体なくて食べることが出来なかった。

 几帳面に串にたっぷりと刺された肉はちょっぴり赤黒くて鶏肉とは似ていなかった。一体何の肉か聞くのを忘れてしまった。

 勿体ないので、ラップで包んでジップロックに入れて冷凍した。


 胸が一杯で食べられない。

 俺は、たぶん……たぶん七虹さんに惚れてしまっているかもしれない。

 いや、早すぎるというのは分かっている。

 昨日、会ったばかりだし。

 一目惚れとほとんど変わらない。


 女性からみたら、「私の何を知っているって言うの?」って感じだろう。

 七虹さんみたいに綺麗で、胸の大きい女性ならきっと色んな男が見た目だけで彼女に魅力を感じてお近づきになりたいと思うだろう。


 だけれど、気になる女性から二日も連続で手料理を振る舞われたら普通の男だったら舞い上がっても当然だろう。


 七虹さんから渡された皿を丁寧に洗う。

 真っ白な円い皿は、春のパン祭りでもらったものだろう。

 七虹さんみたいなお洒落な女性でもああいう、普通のスーパーで買えるパンを食べるんだと思うとちょっと親しみがわいた。

 どちらかというと、七虹さんはパン屋さんで食パンを一斤買ったり、フランスパンの袋を小脇に抱えている方が似合いそうだった。


 お皿を洗って乾かす。

 明日は七虹さんになんてお礼を言おう。

 幸せでありながら、なかなか寝付けない夜だった。


 こんな気持は久しぶりだった。


 やっと青春が来たって感じだ。


 でも、浮かれてはいけない。

 一方的に好きになってしまっただけなのだから、七虹さんにとって俺はただのお隣さんだ。

 急に距離をつめたら、普通の女性ならおびえるだろう。

 七虹さんにとっても適切な距離感で、いつか一緒に夕飯を食べられたらいいなあ。

 今の俺の目標はそれぐらいがちょうどいいのだ。


 薔薇色のキャンパスライフは無理かもしれないけれど。

 ちょっとだけ、大学生活に色がもどってきたかもしれない。


 大学で好きな子と同じ授業をとったり、一緒のサークルに入ったりなんていうのはたぶん、このままの社会では叶わないだろう。


 でも、美人なお隣のお姉さんと仲良くなって、一緒に夕飯を食べたりする。これならば随分、現実的な気がする。


 俺も料理を覚えて、なにか七虹さんにもっていこうかな。

 俺はそう思って、料理のレシピを調べる。

 できるだけ簡単そうなものを。七虹さんのように動画で見られるやつを。


 いつか、七虹さんに料理を俺の部屋で振る舞えるようになろう。

 料理だけじゃなくて、見た目も勉強も頑張って、アルバイトもして。ちょっとでも七虹さんに気に入ってもらえるように頑張ろう。

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