第6話 お隣さんのお裾分け

 お隣の西野さんがくれたタッパーの中身は、そぼろだった。

 ちょっとというか、すごく意外だった。

 子供のころ、ときどき実家の冷蔵庫に常備菜として入っていた気がする。

 挽肉をあまじょっぱく味付けしたやつ。


 そぼろと炒り卵とほうれん草の炒め物。

 西野さんがくれたタッパーにはきちんとアルミで枠が作られて、それらが綺麗に詰められていた。


 ああ、子供の頃のお弁当でこういうのあったかもしれない。

「今日ねぼうしちゃって、時間がなかったの。ごめんね」と言って母さんが持たせてくれたお弁当。

 ご飯の上に、そぼろと、炒り卵に、小松菜をごま油でいためたもの。

 シンプルだけれど、スプーンでざくざく掘り進めるようにして食べるのは結構楽しかった。


 そぼろの甘塩っぱさに、たっぷりのごま油と塩で味付けした小松菜は普段食べる野菜よりも食べやすくて好きだった。

 ときどき、箸休めのようにふわふわと甘い卵をほおばるのも、お菓子を食べているみたいで普段の食事と違うのが楽しかった。


 西野さんが作ってきてくれたそぼろを、レトルトパックのごはんにかける。

 醤油の食欲をそそる香り。一口食べてみると、甘塩っぱくてコクがあってでもくどすぎなかった。秘密は何だろうと観察してみると、生姜を小さく刻んだものが混ぜられていた。きっと、この生姜のおかげで色んな臭みが消えているのだろう。


 肉ばかりではいけないと思って、今度は緑のもの。ほうれん草に箸をのばす。

 鮮やかな緑なのに、くてっとやわらかく食べやすい。そしてバターの香りがした。

 卵はふわふわとやわらかくて、ちょっぴり甘かった。


 一人で食べているのにも関わらず、なんだか味を比べながら食べるのは楽しかった。

 久しぶりに食事が楽しいと思った。


 西野さんは自分のことを料理上手ではないと言っていたけれど、すごく一つ一つが丁寧に作られていて美味しかった。

 誰かに作ってもらえたのが嬉しいとかそれだけじゃない。

 そぼろの中の隠し味の生姜とか、ほうれん草の臭みを消すたっぷりのバターとかふわふわと柔らかな卵。

 すごく単純だけれど、食べる人のことを考えないともっと適当に作れるのを、丁寧に心を込めて作ってくれているのが分かった。


 食事を食べ終えて、そぼろとかの残りはラップに包んで冷凍した。あまりにも美味しくて食べるのがもったいなかったから。

 そして、西野さんが渡してくれたタッパーを洗う。


 明日、このタッパーを何て言って返そう。

「美味しかったです」かな?

「また、作って欲しいです」は流石に図々しい気がする。

 俺はそんなことを考えながら、眠りについた。

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