第4話 レトルトの米
お隣に住む美人でちょっとおちょっこちょいなお姉さんである西野さんが帰ったあと、俺はあることに気づく。
しまった。引っ越しをしたので、何時ものように近所の牛丼屋やら学食で夕飯を食べることができないということに。
今までの本キャンパスの近くなら、大学の学食は短縮営業といっても一応そこそこの時間までやっていたし、近所に牛丼屋とかその他大学生が行きそうなラーメン屋、それに二十四時間スーパーなどそこそこ食べる場所があった。
だけれど、ここは本キャンパスと違って、田舎だ。
いくら学生が食べるといっても、本キャンパスほど人数がいない学食は採算がとれないので早々に閉まり、外食向けの店もほとんどない。しかも、スーパーはさっき西野さんがわざわざ恥ずかしがりながら俺の家に醤油を借りに来るということはもう閉店の時間だ。
つまり、俺は食べるものがない。
いや、まて。
なにかあるはずだ。
さっきの醤油みたいに、もとのアパートから引っ越しのときに持ってきた備蓄が。
確か、ご飯のぱっくとかツナ缶とかそんなものがあったはず。
そう思って、俺は片付いていない段ボールをがさごそとあさる。
どうして、ろくな荷物なんてないはずなのにこんなに段ボールの数が多いのか不思議だ。
ホント。
こんなにたくさん荷造りをした覚えがない。
適当に開いている押し入れに詰め込んでもらった段ボールをひっぱりだす。
ビンゴ。
外側にちょっとだけ油染みのできた段ボールをあけると、そこにはまさしく備蓄食料関係がはいっていた。
レトルトのご飯のパックに、ラーメン、調味料(使いかけ)なんかが詰められていた。
ただ、肝心のツナ缶がない。
どこか別の箱に入ってしまったのだろうか。
いくつか箱をあけてみたけれど、見つからない。
そのうち、箱をあける作業にうんざりしてあきらめて、パックのごはんに醤油をかけたのでも食べて済ませてしまおうとおもう。
たぶん、なんとか食べられるだろう。
そう思って、調味料の箱をさがしても醤油がない。
ならばストックがあったはず……さっき、お隣さんにあげてしまったんだった。
つまり、俺は今夜は塩ごはん。
なんかわびしい。
醤油も十分しょぼいけれど、塩だと本当になんというか味気ない気がした。
俺が新居(おそらく、事故物件)で食べる初めての食事は、パックの塩ごはん。
なんだかこれからの三年間を象徴していそうで怖くなる。
こんなに味気ない食事って……。
そういえば、昔読んだ小説で主人公の女の人が、自殺しそうなんだけれどその人は塩味のおむすびを食べていた。中に具のないおにぎりは生きる気力がないことの象徴でとしてきされているのを読んでから、できるだけおかずも食べようと思うようになったんだっけ。
いやだなあ。事故物件。
幽霊とか怖くないつもりだったけれど。
なんだか嫌な感じがする。
トントン、トントン
また、ドアの扉が叩かれているような音がする気がするし。
「カイさんー。隣の西野です~」
どうやら気のせいじゃなかったようだ。
俺は慌てて玄関に向かい、ドアをあけた。
ドアスコープも確認しないであけるなんて不用心だ。
でも、つい俺の名前を呼んだから。
まったく知らない人ではないだろうと思ったのだ。
しかも、聞き覚えのある声だし。
というか、隣に住む西野さんと自分で名乗っているし。
ドアをあけると、タッパーをもった西野さんが、にっこりと微笑んで立っていた。
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