第249話、待った出番
「ぎぼぢわる・・・」
「張り切り過ぎだっつのバーカ」
「ガンさん、大丈夫、ですか・・・?」
『キャスの言う通り張り切り過ぎだな。暫くは魔道具を使わん方が良いだろう。少々消耗し過ぎではあるが、休めば問題無い範囲だ。安心しろグロリア』
魔獣の波が一度落ち着いた所で、ガンさんは壁の中で休んでいる。
突然ばたりと倒れたから、びっくりして私は壁から飛び降りてしまった。
怪我とかは無いみたいだけど、魔力を使い過ぎて全身疲労で動けなくなったらしい。
「ほら、良いからねてな。ガンは十分仕事したから」
「・・・すまん」
「謝んな。ガンが謝ったら、私やリーディッドは何したって事になるのさ」
「・・・おう。じゃあ、少し、ねる」
「ん、お休み」
キャスさんが優しくガンさんの頭を撫でると、彼はそれ以上答えずに目を閉じた。
直ぐに静かな呼吸を立てて寝始めたので、キャスさんに手を引かれるままに場を離れる。
「あの馬鹿、今まで役に立ってなかった分役に立たねーとなー、とか言って無茶しやがんの。ほーんとやる事と考え方が極端なんだよねアイツ。まったくもう」
「でも、ガンさん、らしい、です」
「まあねー」
皆の役に立つ為に、みんなが怪我しない為に、全力で走り回っていた。
敵を倒す事よりも周りを生かす為に、余り前に出過ぎず真ん中辺りを。
それに魔力消費も、闘技場で見せた時と似た動きで大分抑えてたと思う。
「・・・そうか、ガンさんのアレは、私と戦う為でも、あったけど、この為でも、あったんだ」
『かもしれんな。全くもって敵わん男だ』
やっぱり良い人だな。ガンさんは何処までも私の理想みたいな魔道具使いだ。
けれどそんな彼が倒れてしまったとなると、前線の戦力は大分落ちた事になる。
今度こそ私の出番が有るだろう。そう思っていたのだけど―――――。
「来たぞおらぁー!」
「しゃあ、ギルマスにつづけぇ!」
「野郎ども、アタシらのケツばっかり見てんじゃねえぞぉ!!」
『・・・強いな、ギルマスと受付嬢』
「・・・ですね」
ギルマスさんが応援に来て前に出ると、ガンさんが居た時と同じぐらい安定している。
勿論怪我人が全く居ないというのは無理だけど、やっぱり皆魔獣に押し負けていない。
『兵士達の弓で魔獣の移動を誘導し、ひときわ強いのをギルマスや、ギルマス程でなくても戦える者が引き受け、残りを他の傭兵や兵士達で落とす。理想的な陣形だな』
「・・・ですね」
元々ここが出口になる様に壁があり、この平原が戦場になっている。
整備された平原は武器を持って自由に戦え、壁の上から悠々と弓で射れる。
間違えて別の所に出ないように、それも弓の攻撃で誘導しながら。
それでも別の場所に漏れ出た魔獣達は、街を警備している兵士さん達が狩る。
今頃隊長さんは街の周囲を駆け回っているらしい。
向こうの手助けも最初は考えたけど、隊長さんにはっきりと断られている。
「こちらは私の仕事です。ですからグロリア様は、一番必要とされる場に居て下さい」
そう言われて、私はこの場で待機している。
本当に必要なのだろかと、若干疑問に思っているけれど。
だってずっと後方待機で、未だに後方待機のままだから。
しかも後方援護の意味じゃなくて、本当に手を出さない意味での待機だもん。
「っ、グロリアさん、出番です!」
「え、は、はい!」
『成程。確かにアレは危険か』
一応咄嗟に動けるようにじっと平原を見つめて居たら、リーディッドさんに突然呼ばれた。
慌てて顔を上げて彼女に近付くと、ガライドが視界に魔獣を映す。
遥か遠くに鳥系統の魔獣が飛んでいるのが見える。ただこっちには、来てない、様な?
「すみませんグロリアさん、アレは放置しておくと不味そうです。こちらに来ても厳しい相手でしょうし、どこかに行かれても後々の被害が怖い。この場で落として頂けませんか」
「はい!」
やっと仕事を貰えた事が嬉しくて、元気よく答えて壁の上に登る。
頂上に出たら魔獣へと目を向け、けれどまだまだ距離は遠い。
ガライドが視界に大きく見せてくれないと、豆粒程度にしか見えない。
『この距離を感知するリーディッドは、やはりその能力だけは魔道具並みだな』
「はい、すごい、です」
ガライドの称賛を聞きながら、頷き返して腕を前に出す。
「長距離砲撃形態」
『長距離砲撃形態に移行』
バキンという音と共に腕が割れ、中から筒がにゅっと出て来る。
そして長く細くなっていき、壁に固定する様に細い足が生えた。
『目標補足。エネルギー充填・・・発射準備完了』
「ガライド、今日は自分で狙ってみても、良いですか?」
『解った。ロックはそのままにしておくが、魔獣が近付いて来るまでは手動発射にしておく』
「ありがとう、ございます」
きっとガライドに頼った方が、確実で消費も少ないのは解ってる。
けど私も自力でガライドを使いたい。こういう時こそ、良い練習だ。
「っ!」
気合を入れるとキィンという音が鳴り、筒から紅い光が閃光になって走ってゆく。
その光は一直線に魔獣へと向かい、頭を打ち抜いたのがはっきりと見えた。
頭を失った魔獣は、そのまま地面へときりもみ落ちて行く。
『目標撃破確認』
「あ、あたり、ました、ね。ガライド、手助けとか、してません、よね?」
『いや、グロリアはちゃんと自力で当てたぞ』
「そう、ですか・・・」
まさか一発で当てられるとは思わず、ちょっとびっくりした。
『採点的には、60点といった所か』
「良いんでしょうか、悪いんでしょうか」
『ちゃんと当てられた事、仕留められた事は評価点だ。ただエネルギー効率が悪かった。かなり太い砲撃になっていたし、太さの割りに頭にしか当たっていない。いや、ある意味頭に当たったからこそ上手く行っただけとも言える。故にギリギリ及第点という所ではないかな』
「次、頑張ります・・・」
確かに言われた通り、ガライドが放つ時と違って赤い光が太かった。
折角ゆっくり狙える状況だったのに、その辺り全然考えてなかったな。
少し反省していると、リーディッドさんが上がって来るのが見えた。
「流石グロリアさんですね。助かりました」
「あ、リーディッドさん、あれで、良かった、ですか?」
「ええ。十分です。溢れで一番被害が出るのって、飛行系の魔獣被害なんですよ。不思議な事に多くは無いんですが、それでも全くないという訳では無くて。本当に助かりました」
「お役に、立てたなら、何よりです」
そうか、飛べる魔獣の為に、私はずっと待機してたのか。
確かにここからなら、何処でも狙いたい放題だ。
「次も、任せて、下さい!」
「ええ、お任せします。ただこっちに真っ直ぐ向かって着そうな場合と、そこまで大きな魔獣ではないと判断した場合はこちらで対処しますから、その時はまた待機で」
「・・・はい」
大きいのじゃないと、駄目なのか・・・私も役に立ちたいな・・・。
『あの距離で被害判断を即座にしたリーディッドが一番恐ろしいな・・・』
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