第243話、危機の可能性
城に帰った時間も時間だったので、皆で夕食を食べる事になった。
今日はメルさん達も一緒で、珍しく国王様も一緒だ。
国王様には優勝した事を褒めて貰ったけど、余り嬉しいとは感じない。
だって特に興味がなさそうで、ただ義務的に言ってる感じだったから。
それならキャスさんの抱き付きの方が嬉しかった。
とはいえお礼は返したし、彼からはしっかりと忠告があったけれど。
「いざとなれば私はお前を売るぞ」
食事が終わった後、小声で私にだけそんな事を言って来た。
言われた理由は解っている。既にガライドが私に注意していた事だろう。
私は余り考えていなかったけれど、言われて確かにと納得した。
『君を捨てた男が今だ興味が有れば、今回の件で君の近況を知る事になるかもしれん。最悪侵略戦争になるか、交換条件に君を求めるか・・・どちらにせよ、何かがある覚悟は必要だろう』
闘技場という目立つ場所。私の戦い方。偽装していない私の名前。
人形まで作られて売りに出されれば、それが他国に流れる可能性もある。
そもそも他国の闘技場を見物に来る観光客も居て、ならば何時か知られる事だろうと。
「解って、ます」
「ならば良い」
私の返答に満足したらしく、彼はそれ以上は何も言わずに去って行った。
実際構いはしない。私程度の存在で皆が助かるならそれで良い。
魔獣領での生活は幸せだった。私を人間にしてくれた恩人達がいっぱい居る。
彼等に迷惑をかけるぐらいなら、私はいっそ一人で出向く。
売られたのだとしても、ガライドが一緒に居てくれたら何とかなる。
「・・・今度は、打ち抜き、ます」
今でも何時でも思い出せる。成す術の無かったあの煌めきを。
あの時はどう足掻いても勝てなかった。けれど今度は絶対に負けない。
いや、負けないんじゃない。勝つ。勝って、生き残る。
何よりも、確実に、殺す。
人を殺してはいけない。それは人として生きる上では当然の事だと学んだ。
だから私は・・・彼と戦う時は『紅蓮の暴食』に戻るつもりだ。
生きるために殺し続けた、食らい続けた一体の化け物に。
あの時の続きだ。見逃された戦いの続きをやるんだ。
そして確実に息の根を止める。あの人は倒すだけじゃ止まらない。理屈じゃなくそう思う。
私が沢山食べなければ生きられない様に、あの人は何かを壊さないと生きられないと。
『グロリア、余り思いつめるな。まだ可能性でしかない』
落ち着く様にと言うけれど、そもそもガライドが口した可能性だ。
彼がいい加減な事を言うとは思えず、ならきっとそのうち伝わるだろう。
そしてあの人がもし私の存在を知れば――――――。
『君を愛している』
きっと、あの声で、やって来る。きっと私を壊しに来る。私の、全てを。
私にとって大事な全てをきっと、壊す為にやって来る。
「今なら、解る。あの人の、言う『愛』は、自分しか、見てない」
全て自分の為だ。彼の言葉は全て自分の為だ。自分が心地良くある為だけの行動だ。
人の為に生きる人達と触れ合って、あの人がおかしい人だと理解出来た。
そして何よりも、きっと私とあの人は、根っこの所で同類なのだと。
「きっと、今の私は・・・彼にとって、楽しい、玩具だ」
大事な物なんて無かった。必要な物なんて無かった。ただ生きていれば良かった。
死ぬ事だけが怖くて、生きる為にずっと足掻き続けて、だからどんな状況でも心は折れない。
けれどもし今の私がリーディッドさん達を失えば、私の心は折れずに居られるだろうか。
「グロリアお嬢様、どうかされましたか?」
「リズさん・・・なんでも、ないです」
国王様が居る時は少し離れていたから、少し遅れて私の様子を確かめにきた。
本当に何時も良く私の事を見てくれている。彼女が壊されたら、私は・・・。
「―――――っ」
想像するだけで胸が締め付けられそうな気持になる。ああ、そうだ、私はもう私じゃない。
何時の間にか私は『人間』に近付いていて、それは全部彼女達のおかげなんだ。
だから、うん、やっぱり、私はまだ、人間になる訳にはいかないんだね。
彼女達と一緒に居たいけれど、その為にはまだ化け物で居ないといけない。
私はやっぱり、未だ『暴食のグロリア』の名こそが相応しいんだ。
『・・・警戒の為だったが、不用意な忠告だったか。いやだが、警戒せずに不意を打たれる方が不味い・・・こんなつもりではなかったのだがな。本当に、私は成長しないな』
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