第241話、商品
皆で城に帰る為に、ガンさんの目が覚めるまで控室でのんびり待つ事にした。
眠る彼の事は王女様にお願いして、彼女も嬉しそうに頷いて引き受ける。
そうして控室に戻ると、部屋の前に責任者のお爺さんと職員さん達が立っていた。
「おう、帰ったかと思ったぜ」
お爺さんは私達に気が付くと、笑顔で手をあげる。私に何か用だったのだろうか。
「どうか、しました、か?」
「今後の予定を話しておこうと思ってな」
「予定? まだ、他にも、試合が?」
「いや、嬢ちゃん全勝なんだから、優勝者への表彰と賞金授与が有るんだって」
優勝。ああ、そうか、そういえばそうだった。一番成績が良い人が勝ちなんだった。
今日はガンさんに勝つ事と、勝ったけれど負けた事で頭がいっぱいで忘れてた。
「忘れて、ました」
「そうみたいだなぁ」
くっくっくと笑われてしまった。でも笑われただけなら良かった。
忘れていた事で不愉快にさせた訳じゃないみたいだと、ほっと息を吐く。
「では立ち話も何ですし、中でお聞きしましょう」
「ああ、そうだな」
リーディッドさんが皆を部屋に促すと、お爺さん達も従って全員部屋の中へ。
ただ椅子が少し足りなかったから、別の部屋から持って来たけど。
職員さん達は要らないといったのだけど、私がとって来ると言ったら慌てて持っきて。
『どうやら職員達もグロリアのファンになったらしいな』
「そう、ですか・・・」
彼等の私を見る目が、少しずつ変わっていたのは何となく気が付いていた。
観客の人達が試合中の私に向ける目を、関係者通路を歩く私へ向ける事に。
どうも職員さん達は私を気に入ってくれたらしい。その事はとても嬉しい。
ただ余り気を遣われるのも、何となく申し訳ない気分になってしまう。
私の言葉をそこまで気にする必要は無いし、気を楽にしていて欲しいな。
とは思うものの、ガライドに『彼らはそれで楽しいんだ』と言われては黙るしかない。
「いやぁ・・・しかし凄かったな。途中までの試合運びもそうだが、決着で見せた嬢ちゃんの奥の手は、どいつも防げる気がしないぞ。あんな事されたら誰も勝てねえわ」
「・・・だめ、でした、か?」
「いやいや、あの歓声を聞いただろ。誰も嬢ちゃんの勝ちを否定してねえさ」
「なら、良かった、です」
もしあの勝ち方が駄目なら、次は別の手を考えなければいけない。
いや、そもそも同じ手段でガンさんに勝てる気がしない。
彼はきっと、次は対策を講じて来る。そんな気がする。
「嬢ちゃんはいまいち自分の人気が解ってねえなぁ」
「人気、ですか」
「おうよ。元々魔道具戦のリーグは人気で観客も多い。けど今年は例年以上に客が入っていて、立ち見もかなりの量だ。みーんな嬢ちゃん達を見に来てたと言っても過言じゃない」
「はぁ・・・」
そうなのか。でもそれは私だけではなく、ガンさんや他の選手も見に来ているのでは。
「紅蓮のグロリア」
「へ?」
「観客がお前に着けたあだ名だ。もうかなり浸透してる。下手すりゃ『紅蓮』がお前さんを差す名前になっちまってる。それぐらい嬢ちゃんは大人気闘士って訳だ」
『リーグ戦の中頃には、そう呼ぶ者達が居たな』
紅蓮のグロリア・・・そうか、紅蓮の暴食とは、ここでは呼ばれないのだろう。
だって私は誰も食べていないし、暴食の名を呼ばれるような事はしていない。
ここでの私は、暴食のグロリアじゃ、ない。それが嬉しくも、少し申し訳ない気がする。
「しかも今日の試合を見ていた奴の中には、天使、何て呼ぶ奴も出る始末だ。あの光の羽で空を飛ぶ姿を見たなら、致し方ねえ気もするがな。ありゃあ圧倒される」
『ああ、何人か呆けて呟いてるのが居たな。グロリアは天使だから当然だな』
紅い光の羽で空を飛ぶ私は、そんなに天使に見えるのだろうか。
私本人からすれば、破壊しか出来ない様な天使なんて居て欲しくないのだけれど。
もっと人の為に色々出来る存在こそが、天使と呼ばれるに相応しいと思う。
取り敢えずガライドは、何故私を天使と断定したのかは後で聞いておこうかな。
一番私の事を知っているはずなのに、時々意味の解らない事を言う。
「そんな訳で、表彰時も観客は満員御礼だろうな。むしろ全勝優勝と嬢ちゃんの戦いを聞いて、一目だけでも見たいという連中も多いだろう。完全に全部持っていかれちまったな。ははっ」
「はぁ・・・」
どうしても気の抜けた返事になってしまう。いまいち私自身に実感がない。
そんな私を見る皆の表情は、何処か苦笑気味に見えた。
ただお爺さんはその笑顔をリーディッドさんに向け、今度はニヤリと笑った。
「んでまあ、これだけ人気なら色々と商品展開も出来るって訳で、その相談をだな?」
「良いでしょう、詳細は?」
「おう、既に書面で作って来てる。これを見てくれ」
「良いですね。仕事が早いじゃないですか」
『商魂逞しいな・・・』
商品展開って、一体何をするんだろう・・・私の人形? そんなの売れるの?
あ、でもこのガライド人形はちょっと欲しい。私には本物が居るけど、欲しいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます