第234話、予想外
二人共今日の試合は終わったので、一緒に同じ控室に集まる事にした。
一旦休憩をしてから帰ろう、という事だ。ガンさんが結構疲れてるみたい。
「しょっぱなから全力は結構きっついな・・・」
全力、だっただろうか。そんな風には見えなかったんだけどな。
私と鍛練をしている時の彼は、もっと速かったと思う。
それこそ目で追う事を許してくれない、凄まじい速さ。
遠目で見ていたからそう思うだけだろうか。ガライドにも後で聞いてみよう。
なんて思いながらポヤッとお茶を飲んでいると、コンコンとノックの音が響いた。
「はいはーい、どっなたっかなー」
今度もキャスさんが対応に向かうと、訪問者は責任者のお爺さんだった。
彼は「よっ」っと軽く挨拶をして、一緒に居る職員さんと共に部屋に入って来る。
そして私の近くに腰を下ろすと、とても大きな溜息を吐いた。
「いやぁ、参った。アレは参ったわ」
「?」
お爺さんの言葉の意味が解らず、コテンと首を傾げる。
一体どうしたのだろうか。何か問題でもあったのかな。
「嬢ちゃんが強いのは解ってたつもりだったが、ありゃあ強いなんてもんじゃねえな。嬢ちゃん、魔道具使ってなかったろ」
「使って、ましたよ? 両手、両足、動かして、ます」
「そういう事じゃなくてだな・・・魔道具の力を引き出して戦ってなかっただろ?」
「・・・それは、そう、かも?」
確かに今回はほぼ私の力だけで戦っていた。ガライドに協力を求めていない。
ガライドには舞台袖で待って貰っていたし、両手足は特に変化させなかった。
「まさかここまで格が違うとは・・・いや本当に参った」
「・・・だめ、でした、か」
私は闘士として失敗したのか。お爺さんを困らせたなら、多分そういう事なんだろう。
認めて貰えたと思って、嬉しかったけど、やっぱり私は駄目なのだろうか。
「あ、い、いや、駄目じゃねえよ!? あれだけ会場が沸いたんだ。駄目なはずねえじゃねえ。むしろすげー人気だぜ。あんな試合、普通の奴にゃ出来ねえよ」
「・・・そう、ですか」
お爺さんが慌てて説明をしてくれて、少しホッとして顔を上げる。
良かった。本当に良かった。リズさんをがっかりさせずに済んで良かった。
なんて思っていると、お爺さんもほっとしたように息を吐いた。
「まあでも、嬢ちゃんより困るのはこっちだけどな」
そして視線をガンさんに移し、親指で刺しながらそんな事を口にした。
ガンさんに駄目な所なんてあっただろうか。会場の人気は彼も凄かったと思うけど。
「・・・え、俺?」
「おう、お前だ」
お爺さんの言葉に困惑するガンさん。私も不思議で首をかしげてしまう。
ただガンさんの事なのに、王女様が嬉しそうに笑っているのが気になった。
「強過ぎるだろ、お前」
「えぇ・・・魔道具見せた時つまんねぇって言ったじゃんあんた・・・」
「魔道具は、だ。光剣なんて、一番復元されてる魔道具だからな。お前の実力をつまらない、なんて言った覚えはねえよ。だとしても誰があんなに強いと思うかよ」
「そう、か? グロリアの方がよっぽど強いぞ?」
ガンさんが怪訝な表情で応えると、お爺さんはリーディッドさんに目を向ける。
眉間にはしわが寄っていて、困っているのか気に食わないのか、少し悩む表情だ。
「おい嬢ちゃん、コイツ昔からこんなか?」
「昔はもう少し自信家だったんですけどね。何時からかこんなです。その上今は森の奥の魔獣の実力も知ってますから、余計に自分の強さを認めなくなりました」
「・・・周り、コイツより、弱いんじゃねえのか?」
「この男は普段魔道具を使いませんから。魔道具無しの実力は中の下といった所です」
「うっわ、めんどくせえな」
「ええ、面倒くさい男です」
お爺さんとリーディッドさんは、二人そろって残念そうな目をガンさんへ向ける。
向けられたガンさんは不服そうで、後ろでケラケラとキャスさんが笑っていた。
ただそんな彼の事を見ていた王女様が、クスクスと笑いながら口を開く。
「良いじゃありませんか。私はガン様のそういう面倒臭い所も好きですよ」
「・・・面倒臭いとは思ってんすね」
「はい。だからこそ愛おしいのではありませんか?」
「・・・すみません、ちょっと良く解りません」
「それは残念です。可愛らしくて良いと思うのですけどね」
可愛い、のかな。そういえば客席でも可愛いって言ってる人が居たっけ。
ガンさんは可愛いのか。成程。じゃあメルさんも可愛い人で良いのかな。
前に何だか可愛いって思った事があったし・・・アレは何でそう思ったんだっけ?
「隙あらばいちゃつくよねー、王女様」
「なかよし、ですね」
「仲良しというか、蜘蛛に捕らえられた虫というか・・・まあ本気の様なので良いですが」
『捕らえた虫というよりも、半ばペットの調教に見えるのは私だけか』
リーディッドさんとガライドのたとえは違うと思う。だって王女様ガンさんの事好きだもん。
食べる気なんて無いし、ガンさんが好きになってくれる様にって頑張ってるよ。
「・・・まあ、ともかくだ、嬢ちゃんは今日と同じ様な試合運びで構わねえんだが・・・お前さん、悪いがもうちょっと手加減してやってくんねえか。少なくとも何かさせてやってくれ」
「何かって言われても・・・俺怪我したくないし」
「やってくれたら出場給倍額で良いぞ」
「いや、金の問題じゃなくて・・・」
「負けろって言ってるんじゃない。瞬殺は勘弁してやってくれ。つか今回は初戦だから良いが、毎回同じ試合運びはお前の人気も落ちるんだよ。強いのに勿体ねぇ。頼む、この通りだ」
お爺さんは席を立って膝を突き、深々と頭を下げて頼み込む。
ガンさんは困った様子で周囲を見るけど、誰も口を挟む事は無い。
最終的に彼は大きな溜息と共に了承を口にした。
「すまん。助かる。勿論危ないと思ったら全力でやってくれて構わん」
「あたりまえだ。そこまで譲歩できない」
「そりゃそうだ」
お爺さんはくっと笑いつつも、安堵した様子で息を吐いていた。
本気で困っていたのかもしれない。ガンさんが思っていた以上に強過ぎて。
でも私は良いんだよね。何でだろう。お爺さんの目からはそんなに強くなかったのかな。
『グロリアの戦い方は映えるからな。正面から正々堂々打ち破る。はっきりと強者と解る上に、その動きは見栄えする。その上正面から行くという事は、相手も周りももしかしたら、という想いが少しは生まれる。対してガンは不意を突いての一撃必殺。試合映えはせんな』
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