第229話、女神の使途
突然の乱入者というか、変な人は取り敢えず放っておく事になった。
「着いて来ない様に理由を付けて説き伏せるのが面倒です」
「アレはああなると何も聞かないと思いますので、それで正解かと」
リーディッドさんと王女様がそう言った事で、後は誰からも反論は無かった。
キャスさんは何処か面白がってる感じがあるけど、ガンさんはちょっと警戒している。
リズさんだけは良く解らない、目を瞑ってじっと座っているだけだ。
結論が出て車に揺られる事暫く、見覚えの在る大きな建物が見えて来た。
同時に人の量も増えて来て、車の速度がゆっくりと落ちて行く。
なのでゆっくり動く景色を眺めていると、何となく皆が車に注目している気がした。
「皆、みてます、ね?」
『そうだな。どうやら大概は犬達が気になる様だ。王都にはあの大きさの犬の魔獣がおらん。居たとしても制御するのが難しいからと、物珍しさの見物人が多いらしい。前もそうだったぞ?』
「・・・でしたか」
そういえば以前来た時は、二度ともあまり景色を見る余裕が無かった気がする。
一度目は歓声が聞こえ始めた所で、それだけに意識がいっていた。
二度目も色々気になっていたからか、余り外を見た覚えがない。
「あの子達、人気者、ですね」
『くくっ、確かにそう言えるな』
あの子達は可愛いし、ふかふかの毛皮はきっと皆触りたがると思う。
でも世話係をしている人が居うには、知らない相手に余り触られるのは好きじゃないらしい。
王女様や私には全然嫌がる様子が無いから、その辺りの加減が解らないんだけど。
とはいえあの子達が嫌がるのであれば、無理をさせる必要は無いと思う。
何時もこうやって運んで貰ってるし、出来れば何時も心地良く生活して欲しい。
私にとってはあの犬達も友達だ。世話係さん的には『ボスに従う』って感じらしいけど。
「着きましたか。騒動が無くて何よりです」
「その点で言えば、アレは確かに守護者として仕事をしたのかもしれませんね。見るからに貴族ですから、多少の虫よけにはなったでしょう」
「王女殿下、本気で言っていますか?」
「半分本気ですよ、リーディッド様。もう半分は聞かないで下さいますか」
車が止まると二人はそんな事を言いながら、小さくため息を漏らしていた。
それとほぼ同時に車の扉が開かれ、炎剣の人は膝を突いて構えていた。
「我が女神よ。到着いたしました。お手をどうぞ」
「ありがとー」
「えっ」
差し出された彼に手を握ったのは、私ではなくキャスさんだ。
彼は驚き固まるも、その間にキャスさんは車を降りてしまう。
「いやー、女性には全て優しく手を差し伸べるとか、グロリアちゃんも見直すだろうねー」
「む、確かにそうだ。女性には皆差し伸べるべきだな。うむ。私の評価を女神に告げた事も含めて見所の在る者だな、君は」
『コイツ大丈夫か。以前は王女も大概だと思ったが、扱いの悪さは致し方なかったのかもしれん、と思ってしまいそうだぞ。うんざりした顔になる訳だ』
何だか良く解らないけど、ガライドが疲れた様子を見せている。
私は彼に対し面倒臭いとかじゃなく、色々と良く解らない行動が多いという感じだ。
嫌かどうかと考えると、皆を傷付けさえしなければ嫌じゃない、かな?
「では、女神よ、お手を―――――」
「さんきゅ」
今度は真顔でガンさんが手を取り、炎剣の人も真顔で口を閉じた。
ただ彼は手をギュッと握り、ガンさんは反射的に握り返す。
二人の腕に力が籠り、ギリギリと比べ合う様に握り合う。
「・・・貴様にはいずれまた挑む。今はどう足掻いても勝てん。だが何時か」
「自己分析は出来てるみたいですね。受けて立つ気は無いですよ」
「ふんっ、逃がさんぞ。貴様は私の目標だ」
「勘弁してくれ・・・」
ガンさんが心底嫌そうな声を漏らした所で、二人は手から力をゆっくり抜いた。
目標。ガンさんが目標か。それはとても良い目標だと思う。
魔道具使いとしても、一人の人としても、ガンさんは尊敬できる人だから。
「ガンさん、みたいに、立派になれると、良い、ですね」
『・・・なれるか?』
私は純粋に応援したくなったけれど、ガライドはどうにも疑問の方が大きいらしい。
でも私が『人間』になれたのだから、あの人だって頑張る気があればなれると思う。
「我が女神よ、今度こそお手を・・・」
「あ、ごめん、なさい。もう、降りて、ます」
「・・・お気になさらず。貴女が謝る様な事は何もありません」
ガンさんと喋っている間に降りてしまっていて、王女様も既に降りている。
気にするなと彼は言うけど、見るからにがっかりした様子だ。
悪いことをしたかな。話が終わるまで待っているべきだっただろうか。
「ではそんな貴方に、グロリアさんの為のなる仕事をお教えいたしましょう」
「む、何かな女神の守護者たる同胞よ。女神の役に立つのであれば何でもやろうはないか」
「・・・私の名はリーディッドです。今後は名で呼んで頂けると」
「覚えたぞ、同胞リーディッド。私は――――」
「あ、存じていますので結構です」
「そうか!」
彼は名前を憶えていると言われ、とても嬉しそうな様子だ。
そういえば彼の名前って何だっけ。聞いたっけ?
一度会ったきりだから、色々と覚えてない事の方が多い。
エシャルネさんの街の、傭兵ギルドのマスターさんとかは覚えているんだけど。
あの人は一度会ったら忘れられないと思う。凄く大きかった。
「そちらの犬達は、グロリアさんが大変可愛がっている魔獣犬です。勿論魔獣ですので一定の強さは有りますが、これからのグロリアさんを考えれば、何をされるか解りません。この子達が死ねば彼女が悲しみます。よって闘技場に居る間、信頼できる貴方に護衛をお願いします」
「成程、この犬達は女神の使徒という訳だな・・・任された!」
『・・・リーディッド、もう扱いを学んだようだな。私は会話を聞くだけでただ疲れるぞ』
魔道具使いの彼が犬達を守ってくれるなら、それは確かに安心かもしれない。
ただ問題は以前暴走したはずだから、今回も同じ様な事になったりしないかだ。
「暴走、したら、駄目、ですよ?」
「――――――、勿論です、我が女神よ。貴女に救われたこの命、二度と無駄には致しません。貴女の寛大なお心、私は常に心に抱き続けております」
「そ、そう、ですか。なら、良い、です」
「はっ」
えっと、取り敢えず、暴走しない様に気を付ける、って言ってくれたのは解ったし、いっか。
『グロリアを困惑させる時点で、筋肉の対抗馬にもならんな・・・気にするだけ無駄か』
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