第209話、許可と条件

 取り敢えず誰に許可を取りに行けばいいのだろう。先ずはギルマスさんだろうか。

 そう思い受付の方へと向かい、キョロキョロと周囲を見回す。

 ギルマスさんは受付の奥の椅子で居眠りをしていた。

 尻尾にリボンが付いている。多分フランさんが結んだんだろう。


『暇な様だな』

「みたい、ですね・・・起こしたら、悪い、でしょうか」

『用が有るのだから仕方ないだろう。気にするな』

「ですか・・・」


 それでも何だか悪い気がしつつ、トテトテとギルマスさんへと近づく。

 気持ち良さそうに寝ている。やっぱり起こすのは気が引けてしまう。

 目の前に来たところでどうしようか悩んでいると、受付のお姉さんが近付いて来た。


「どうしたの、グロリアちゃん。ギルマスに用事?」

「は、はい、でも、寝てる、ので・・・」

「あー、気にしなくて良いのよそんな事」


 お姉さんは私の頭を優しく撫でると、ギルマスさんへと厳しい目を向ける。


「ギルマス、起きなさい」

「うがっ!?」


 そして次の瞬間、ギルマスさんの座る椅子を蹴り飛ばし、彼は頭から落ちた。


『・・・大丈夫か、今の。普通の人間なら大分不味い落ち方だったぞ』

「え、あ、だ、大丈夫、ですか!?」

「う、うおお・・・!」


 慌ててギルマスさんに近付くと、彼は呻きながらも起き上がった。

 良かった。ちゃんと意識はあるみたいだ。驚いた。

 ただお姉さんは、心配する私にケラケラと笑いながら声をかける。


「大丈夫大丈夫。こんなの何時もの事だから」

「大丈夫じゃねえよ!? 目茶苦茶いてーからな! お前俺を何だと思ってんだ!?」

「頑丈なトカゲ」

「お前ら俺の扱い本当に酷くねえか!?」

「暇だったとはいえ、仕事中に居眠りかましてたのは誰かしらね」

「・・・俺です。すみませんでした」

「よろしい」

『相変わらず立場が弱いな。肩書が仕事をしていない』


 ショボーンと落ち込むギルマスさん。でもお仕事中に居眠りは、怒られても、仕方ないのかな。

 お姉さんは悲しそうな彼に起こした理由を告げ、受付に戻って事務仕事を始めた。


「はぁ・・・んで、どうしたグロリア。爺さんと何かあったか?」

「えっと、その、お爺さんに、お願いを、されたんです」

「お願い?」


 ギルマスさんにさっきのお願いを伝え、許可を貰えるかも訊ねた。

 すると彼は困った様に唸り、天井を見上げてしまった。


「森への護衛か・・・んー」

「駄目、ですか?」

「うーん。駄目かどうかで言えば、駄目じゃねえんだよ。グロリアに許可が居るのは、子供に危ない事をさせない規則の例外、みたいなもんだからな。ジジイが危険を冒すのは自己責任だ」

「なら、行っても、良い、ですか?」

「んー・・・」


 ギルマスさんは顎をさすりながら困った表情になり、うんうん唸って変な動きをし始める。

 尻尾もビタンビタン床を叩いて、床板が割れるとフランさんに怒られた。


「自己責任とはいえ、魔獣領の森は基本入らないようにする為に、あの砦が有るんだ。人目に付かずにこっそり入って行く分には、もう死のうがどうなろうが知ったこっちゃねえんだが、正面から入るって言うなら、入るだけの力が無きゃ本来は許可出来ねえ」

「駄目、ですか・・・」

「本来はな。あの爺さん傭兵でも何でもねえみたいだし、普通は許可出来ねえよ。ただグロリアが護衛につくって話なら、爺さんに色々と手続きをして貰って、ギルドに出された仕事って形で許可を出す事も出来なくはない」

「じゃ、じゃあ」

「待て待て落ち着け。グロリアが受ける気なのは解ったが、その前にリーディッドや領主殿にもその話をしてこい。んで許可を貰えたらまたギルドに来る事。良いな?」

「あ、は、はい。わかり、ました」


 素直に頷き返すと、ギルマスさんは優しく頭を撫でてくれた。

 そして「じゃあ行ってきな」と言われたので、ペコリと頭を下げてギルドを出た。

 早めに許可を貰いに行こうと、人に当たらない程度に急いで屋敷へ向かう。


「リーディッドさんと、領主さん、どちらに許可を貰えば、良いんでしょうか」

『この場合両方ではないか?』

「両方、ですか」


 貰えるだろうか。領主さんはともかく、リーディッドさんはお爺さんの事を嫌ってた。

 そうなるとお願いをしても、彼女は嫌がる様な気がする。

 不安になりながら屋敷に付くと、リズさんが何時も通り出迎えてくれた。


「リズ、さん。領主さんと、リーディッドさんは、居ます、か?」

「はい、お二人共お出かけにはなられておりませんよ」

「会いに行っても、大丈夫、ですか?」

「グロリアお嬢様の願いを蹴る事などあり得ません。さ、参りましょう」

『・・・良いのかそれで。あくまでリズが仕えるのは領主であろうに』


 リズさんは私の手を優しく引くと、そのまま領主さんの仕事部屋へと向かった。

 彼女がコンコンとノックをすると、中から「入れ」という声が響き扉が開く。

 中には領主さんと・・・リーディッドさんも居た。珍しい光景だ。


 あとは領主さんの仕事の補佐をしている執事さんも一緒に居る様だ。

 彼とは余り関わる事が無いけど、優しい人なのは知っている。

 私を見る目が優しいし、偶に飴をくれる。


「どうしたんだ、グロリア。執務室まで来るなんて珍しいね」

「リズ、何かあったのですか?」

「グロリアお嬢様がお二人にお話があるとの事です」


 領主さんとリーディッドさんの問いに、腰を折りながら応えるリズさん。

 そして「さ、お嬢様」と私に話す様に促し、私はワタワタと前に出る。


「え、えと、ですね」


 二人の目がやけに鋭い事に少し困惑しつつ、お爺さんの事を伝えて行く。

 すると領主様は少し呆れた表情になり、リーディッドさんは見るからに機嫌が悪い。

 だめ、だろうか。やっぱり。


「呆れたね。いまさら何を考えているのやら」

「あの老人の考える事なんて解り切っているでしょう」

「まあ、予測は付くがね」

「本当に、気に食わない。何処まで自己中心な考えなのか・・・!」

『これは、許可を取るのは無理そうだな』


 ガライドも無理そうだと思ったらしい。だって物凄く怒ってるもん。

 出来れば叶えてあげたかったけど・・・断らないといけないな。


「・・・良いでしょう。あの老人を連れて行く事を許可します」

「え、良いん、ですか?」

『む、どういうつもりだ?』


 さっきまであんなに怒っていたのに、彼女は何故か許可をくれた。

 いや、怒っているのは今も一緒だ。明らかに怒った気配と表情だ。

 けれど彼女は首を傾げる私に、追加の条件を告げた。


「ただし、私も一緒に行きます。それが最低条件です」

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