第198話、帰る面子
「わんっ」
「よし、よし。いいこ、いいこ」
車を引いてくれる犬を撫で、今日も頑張ってねと思い抱きしめる。
すると犬は嬉しそうに目を細めてくれるから、その様子がとても可愛い。
ただどうしても大きさ的に一体しか抱きしめられず、他の犬が早く早くと頭を擦り付ける。
「ん、ぎゅー・・・よしよし」
「わふっ」
次の子を抱きしめに行くと、私が抱きしめやすい様に少し屈む。
それが私を気遣ってなのか、単純に自分が抱きしめられたいのかは解らないけど。
どちらにせよ可愛い。ふかふかだねー。
「私も撫でたい・・・」
「姫様、駄目ですよ」
「す、少しぐらい」
「駄目です。姫様は少しで済まないでしょう。殿方の前で毛だらけの姿を見せるのですか」
「うぅ・・・ガン様はそんな事を気にされる方ではないのに・・・」
ただ犬達とじゃれる私を見て、王女様が呻いていた。
どうも侍女さんが許してくれないらしい。
悪い事をした訳じゃないのに、何だか気まずい気分だ。
犬からそっと離れて、トテトテとリーディッドさんの傍へと戻る。
私が離れると犬達は車に繋がれ、指示を待つ様に皆伏せた。
可愛いけど我慢だ。王女様が泣きそうだから我慢だ。
「お姉様、もうお別れなんて、寂しいです・・・!」
「申し訳ありません。ですが此度の事を領地に帰って領主様に伝える必要もありますので。用事が済んだ以上、早めに帰りたいのです。解って下さい」
「はい、勿論解っております。お引止めはしません。ただ、名残惜しいだけですから・・・!」
そう、皆で犬達の所に居るのは、今日城を去るからだ。
ただエシャルネさんは色々と手続きがあるとかで、まだ帰る事が出来ない。
彼女を一人にして大丈夫か心配と思ったけど、よく考えたら一人じゃなかった。
「メルさん、彼女の事、おねがい、します」
「任された。身命を賭して君の願いを叶えよう」
城にはメルさんが居る。彼ならきっと彼女を助けてくれる。
そう思い願いすると、快く頷いてくれた。ただ、その・・・。
「・・・出来れば、メルさんも、怪我しないで、下さいね?」
「っ、心得た。最善を尽くそう。君を泣かせる真似はしない」
彼の手を取って、少し我が儘だと思いつつお願いすると、彼は膝を突いて応えてくれた。
何処までも真剣で、その言葉がとても頼りに思えて、とてもホッとする。
そんな私の思いが伝わったのか、彼はフッと優しい笑みを見せた。
「また会おう。グロリア嬢。君の無事を祈っている」
「はい。また、会いに、来ます。メルさんも、元気で、居て下さい」
「ああ」
彼の手をきゅっと握ると、その上から大きな手で包まれる。
暖かくて、優しくて、頼りになる手。少し、放し難いと思ってしまう。
『別れの時間だ。野暮な事は言わん。うん、我慢だ。流石に我慢だ私』
メルさんと話していると、ガライドは相変わらず時々様子がおかしい。
ただもう何となく慣れてしまったし、あまり心配もしていないけど。
だってガライド、前にメルさんの事褒めてたし。悪い風には思ってないよね。
「んじゃまったねー。レヴァちゃんも、エシャルネちゃんの事よろしくねー」
「私に出来る事は少ないとは思うがね。兄達が張り切っている様だし。今回最後の方は役に立たなかったし。蚊帳の外は少々寂しかったよ」
「またまたー。頼りにしてるよ。ちゅっ」
「色気のない投げキッスをどうも」
「なんだとー! 私のどこに色気が無いというのかね! 出るとこは出てるよ!」
「いや君は体形よりも、性格的にどうしてもなぁ・・・」
「知ってる!」
「ははっ、だろうね」
キャスさんはレヴァレスさんと仲良く別れを・・・惜しんでるのかな、あれ。
まあでも多分仲は良いと思う。二人共笑顔で話してるし。色気は良く解らないけど。
「また会えるのを楽しみにしているよ、リーディッド嬢」
「私は余り会いたくありませんね、レヴァレス殿下」
「ちゃんと名前を覚えてくれていて何よりだ。くくっ」
「・・・不覚です」
ただリーディッドさんとの仲は、最初の頃とあんまり変わらない感じだ。
険悪という訳じゃないけど、二人共一定距離を保つような感じだろうか。
キャスさんはグイグイ行くから仲良くなれるのかな。私の時もそうだったし。
「さ、グロリアさん、参りましょう」
「はい。じゃあ、メルさん、行きます、ね」
「ああ、気を付けて」
さようなら。とは言えなかった。言ってしまうと、会えなくなるような気がして。
だから行きますと口にして、彼も笑顔で応えてくれた。
そうして私はリーディッドさんに手を引かれ、魔獣領へと変える車に乗り込む。
当然キャスさんとガンさんも乗って来て――――――。
「ではお隣失礼致しますね、ガン様。あ、狭ければ膝の上の方が宜しいでしょうか?」
「・・・は?」
王女様が最後に乗り込み、ガンさんは理解不能という表情で彼女を見つめていた。
けれど王女様はそんな彼を特に気にせず、宣言通り彼の隣に座る。
そしてすっと腕を絡めて、体重を彼に預け、そこで車の扉が閉まった。
「え、は、え、なん、で!?」
「あら、聞いておりませんか? 私も共に魔獣領に参りますと、お伝えしたはずなのですが」
「聞いてませんよ!? リーディッド!? キャス!?」
「あ、言い忘れてました。すみませんガン」
「ワタシモワスレテター」
「どっちも棒読みで謝ってんじゃねえよ! 絶対わざと言わなかったろ!!」
あ、あれ、ガンさんには伝えたって、キャスさんが言ってた様な。
私は彼女が一緒に来るって知ってたから、別れの挨拶とかしなかったんだけど。
ただガンさんの剣幕を見て、王女様が少し悲しそうに彼を見上げる。
「ガ、ガン様・・・私が付いて来るのは、お嫌ですか・・・?」
「―――――、い、嫌とかじゃ、なくて、ですね」
「・・・お嫌、ですか?」
「嫌じゃないです。無いので、泣かないで下さい。お願いします」
スンスンと少し泣きながら訊ねる王女様に、ガンさんは早口で否定を返す。
すると彼女はニコッと笑顔を見せ、彼の腕に更にぎゅっと抱き付いた。
これ以上ないぐらいの満面の笑みだ。逆にガンさんは頬を引きつらせている。
「はい♪」
「えぇえぇえぇえええ・・・・」
『酷い物を見た。いやもう正直、ガンの自業自得でしかないが』
同行の許可を得た王女様は、その後ずっとご機嫌な様子で彼にくっついていた。
ガンさんは本当に何を項垂れる事が有るんだろう。私にはやっぱり解らない。
何はともあれ友達が魔獣領に来る事になった。私はその事を喜んでおこう。
『やはりもう、ガンは諦めるべきだと思うがな。王女を憎からず思っている事を、本人が気が付いたが故の行動だしな・・・嫌われない様に距離を測っていた今までとは行動が違う。まあ上手く行った方がグロリアが喜びそうだし、ガンにはそのまま陥落して貰いたいものだ』
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