第173話、倒す方法

 私の攻撃を脅威と感じた魔獣は、空へ空へとドンドン上がっていく。


「あぁぁあぁぁあああああっ!」


 それに追いつく為に力を籠め、声を上げて紅い光を後ろに放つ。

 両手と両足から赤い光が地面に向けて放たれ、私も空へ空へと昇っていく。

 魔獣は慌てた様に更に空へ行こうとするも、昇る速度は私の方が早い。


 何故か魔獣はぐるぐる回りながら上がって行き、けれど私は真っ直ぐ空へと向かっている。

 すると追いつかれると思った魔獣は昇るのを諦め、横へ移動を始めて逃げ出した。

 何時もならきっと、ここで追うのを諦める。だって追う必要は無いから。


「逃が、さない・・・!」


 けれど今日は違う。追わなきゃいけない理由が有る。逃がしちゃいけない理由が有る

 魔獣の群れとほぼ同じ高さになった所で、光を出す向きを変える。

 急激に向きを変えたせいなのか、体に何か重い物がのしかかった様に感じた。

 けれどこの程度なら問題ない。このまま突き進む。


「ぎっ、がっ、がああああああああ!!」


 声を上げて光を放つ。もっと、もっと、あの魔獣を追い越す程速くなる為に。

 そして魔獣に追いついたら、手の届く魔獣の頭を殴り抜く。

 ただその一撃は紅い光を纏っているせいで、周囲の魔獣も吹き飛んでしまった。


 もったいない。消し飛ばしちゃ食べられない。けど、今日は、仕方ない。

 頭を飛ばした魔獣を吹き飛ばさない様に掴み、ガブリと食いついてまた光を放つ。

 片手で魔獣を食べながらだから、少し飛び難いけれど空いてる手で上手く調整する。


『グロリア、群れが別れる。どうする』

「んぐっ。全部、逃がしません!」

『了解した・・・ターゲットロック。グロリア左は引き受ける。右を追え』

「はいっ!」


 左腕からキィンという音が鳴り、ガシャガシャと形の変わる音が響く。

 けれどそんな事は一切気にせず、ガライドの指示通り右に逃げた魔獣を追った。

 すると左腕が勝手に動き、左側に逃げた魔獣へと向けられる。


『発射』


 その短い声が響くと同時に、左腕から沢山の細く紅い光が放たれた。

 光は逃げた魔獣達の頭を正確に打ち抜き、一体残らず地面へと落ちていく。

 流石ガライドだ。やっぱり頼りになる。これでもう、後は今追っている群れだけだ。


 けど私にガライドの様な器用な事は出来ない。何時かはとは思うけど、まだ私には無理だ。

 だから今私がやるべき最善は、後の事を考えずこの群れを一体残らず殲滅する事。

 なら食事の事を考えている場合じゃない。この戦いは食事の為じゃないんだから。


「ああぁぁぁああああああっ!!」


 全力を右腕に込めて拳を握り込み、強く、強く、もっと強く、紅く光らせる。

 魔獣達はそれに気が付いたのか、また左右に別れようとした。させない。


「があっ!!」


 魔獣達が逃げる前に拳を全力で前に振り抜き、紅い光が大きく広がりながら魔獣を飲み込む。

 私はその勢いで後ろに大きく吹き飛び、けれどしっかりと一体残らず倒した事を確認した。

 これで大丈夫だ。これで誰も傷つかない。きっと、知らない誰かが、助かる。


『グロリア、出力が落ちている! 地上に戻るまで気を抜くな!』

「はっ、はいっ!」


 ガライドに注意されて力を籠め、消えかけていた紅い光を再度纏う。

 そしてそのまま地面に降りて、ダァンと音を響かせながら土煙を上げた。


『――――ふぅ、驚いた。グロリア、あの高さでは流石の君でもどうなるか解らん。着地までは出力を下げない様に、今後は気を付けてくれ。こちらが焦る』

「ご、ごめん、なさい」


 叱られてしまった。でも言われる通り、最後まで気を抜くべきじゃなかった。

 ちゃんと倒せた事に安心して、それ以外の事から気が逸れていた。反省しよう。


『まあ、無事だったから良しとしよう。そしてグロリア、着地した以上は早めに出力を下げた方が良い。かなり消耗している。魔獣は・・・あの騎士達に拾いに行かせるとしようか』


 ガライドが私の視界の中に、もう一つ視界を差し込む。左上の方にメルさんが見えた。

 地竜で私の方へ向かって来ている様だ。彼の方へと向くと、差し込まれた視界が消える。


「ふぅ・・・あっ、とっ・・・ちから、が・・・」

『やはり、消耗が大き過ぎたか・・・早めに補給せねばな』

「です、ね」


 力を抜いて紅い光を消すと、カクンと足から力が抜けた。

 足どころじゃなくて、全身の力が上手く入らない。何だかぼんやりする。

 魔力の使い過ぎ、なんだろう。早く魔獣を食べないと。


「グロリア嬢! 無事か!」


 そこでメルさんが地竜から降りて、私の元へと駆け寄って来る。

 とても心配そうな様子に思わず首を傾げ、そんな私の前に彼は膝をついた。


「怪我は、ないか?」

「はい。無い、です。大丈夫、ですよ」

「・・・そうか。いや、そうだな。有る訳がないか。解っては、いるんだがな」


 彼はフッと微笑み、私の頬を親指で撫でる。それがとても心地いい。


「返り血、だな」

「あ、えと、はい。空で、食べた、時のです」

「・・・食べた?」

「はい。私、魔獣を、食べないと、生きられない、ので」

「――――――そういう、事か。それで魔獣領か」

『察しが良いな。そういう事だ』


 メルさんは私の体質に納得いったように呟くと、私を抱えてすっと立つ。

 そして騎士さん達に指示を出して、落ちた魔獣を拾いに行かせた。


「少しだけ、待っていてくれ。その間休んでおくと良い」

「はい。ありがとう、ございます」


 流石に少し、体が重く感じる。今は素直に言う事を聞いておこう。

 それにこれは気遣いだし、素直に彼に甘えていよう。多分、それが良い。


『貴様も行け! いや、そうなると消耗したグロリアが一人か。ぐぬぬ・・・!』

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